MAツール(Marketing Automation)ツールとは、見込み客を獲得・育成し、商談可能な状態を作り上げるマーケティング活動を自動化・効率化するためのツールです。顧客の購買プロセスの変容への対応や消費行動の多様化、多岐に渡るマーケティング活動に対応するため、MAツールを導入する企業は増加しています。
今回はMAツールの導入シーン、失敗例・導入事例とともにMAツールの導入検討に向けた基礎知識をご紹介します。
目次
MAツールを導入する流れ
MAツールを適切に導入すれば、効率の良い、成果に繋がるマーケティング活動が期待できるでしょう。ここではクラウド型MAツールを導入し、活用していくまでの大まかな流れをご紹介します。
- MAツール導入の目的と目標の設定
- 適切なMAツールの選定
- 予算とリソースの計画
- MAツールの設定とカスタマイズ
Step1.MAツール導入の目的と目標の設定
まずは何のために、どんな課題や目標達成のためにMAツールを導入するのか、自社目的と成果を明確にするところからはじめましょう。MAツールはマーケティング部門の主導で導入されるケースが一般的ですが、会社が抱えている課題はマーケティング部門の視点から見えるものだけとは限りません。
例えば、マーケティング部門は「見込み客に届けるコンテンツが足りずにリードを育成できない」と考えていたとしても、営業部門では「パスされるリードの意欲が低い」と質に課題を感じているケースもあります。関係する部署全体で自社が抱える課題を洗い出したうえで目的と成果を定めていくことが重要です。
・KPIの設定
解決したい課題の洗い出しとともに、その解決度合いを定量的な目標であるKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)に落とし込みましょう。KPIは最終的な目標であるKGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)の達成に向けた中間地点ともいえる目標です。
KPIはひとつではなく、複数設定しましょう。例えば、売り上げの向上というKGI達成に向け、KPIを「サイトへのアクセス数を前年比50%増」と設定したなら、さらに「メールマガジンの登録者50%増」「Webサイトコンテンツ数を50増」など、さらに行動目標を細分化して設定します。
複数設けたKPIは、それぞれ達成時期と中間目標を設定することで、目標達成に向けた施策の効果を測定できるようになります。
Step2.適切なMAツールの選定
数ある製品の中から、自社のニーズや課題の解決のための機能を持つMAツールを選びます。多くのMAツールはマーケティング効率化のための機能を万能的に備えますが、自社にとってすべての機能が必要とは限りませんし、また自社の求める機能がない/カスタマイズできないといったこともあります。市場調査や比較をしたうえで必要な機能が使えるツールを選定します。
・MAツールの市場調査
MAツールの選定は、複数のツールを絞り込んだうえで比較を進めましょう。MAツールは機能や価格を問わなければ数十種類にもおよぶ数がありますので、すべてを検討するのは困難です。自社に適したMAツールを絞り込むには、機能や使用感、口コミなどをまとめたデータサイトを参考にするとよいでしょう。
・ツールの比較・選定
自社に向いていそうなMAツールが見つかったら、無料トライアルやデモバージョンを利用して機能を評価しましょう。MAツールに求められる機能の代表が「リードの一元管理機能」「シナリオ作成機能」「スコアリング機能」です。これらは多くのMAツールに搭載されている機能ですが、使用感や機能の内容はツールごとに異なります。自社が重視する機能の使い勝手を確認し、求める成果に繋がる機能であるか確認しましょう。
Step3.予算とリソースの計画
導入したいMAツールのめどを付けるとともに、実際に導入するまでの計画を立てます。
・予算計画の立案
MAツール本体にかかる費用をベースに、導入と運用に必要な予算の計画を立てます。クラウド型MAツールの利用には、導入に必要な初期費用と月額/年額の使用料が必要ですが、それ以外にもコストが発生します。例えば、ユーザー/従業員を教育するための費用、データの移行費用、システム統合のための作業費用など、短期的な費用だけでなく長期的に発生し続けるコストもあります。リストから漏れないように導入前の予算計画は綿密に行いましょう。
・人員計画の立案
予算計画と同時に、MAツールの運用にかかる人員配置計画も並行して進めましょう。MAツールはマーケティング活動の効率化と自動化が望める製品ですが、マーケティングに関わる人材を極端に削減できるわけではありません。新しい方法を導入することになりますので、ツールの使い方に精通した人材を育成する必要もあるといえます。
MAツール担当にはやはりマーケティングの知識とシステムの扱いに長けている人材を抜擢するのが望ましいでしょう。適切な人員がいない会社でMAツールを導入するならば、新たなスタッフの雇用や外部への委託を検討することも計画に含めておくとよいでしょう。
・スケジュールの立案
MAツールの導入プロジェクトは、参考値として「およそ4カ月程度から、それ以上」の期間をかけて行うことが多いです。稼働予定日から逆算してスケジュールを立てましょう。導入までの進行はシステムの規模や自社の業種、製品やベンダーによって異なりますが、おおよそ以下のようなスケジュールで進行します。
- 1カ月目 MAツールの選定と社内承認
- 2カ月目 MAツールの設定に必要な定義の検討
- 3カ月目 テストバージョンでのテスト開始
- 4カ月目 運用開始
Step4.MAツールの設定とカスタマイズ
MAツールの導入においては、自社の需要や目的に合わせた初期設定と機能のカスタマイズを行いながら「運用フロー」へ落とし込んでいきます。
・MAツールの設定
MAツールは、次のような初期設定を行います。
- カスタマージャーニーマップの作成
- リードライフサイクルの定義
- マーケティング施策の整理
- 顧客の購買プロセスの整理
- ペルソナの整理
- スコアの整理
これらを設定することで、「誰に」「どのような手順で」「どの程度の期間をかけて」「行動をどう評価し」自社商品を売り込んでいくか、見込み客の意識を育てるための過程を定義できます。
・MAツールのカスタマイズ
MAツールは製品ごとに異なる機能が搭載されていますが、自社のニーズに合わせていくために「カスタマイズ性の高い」ツールも多くあります。例えば、サイト訪問者が入力しやすいフォーム改修や、管理する顧客情報に対して業界特有項目の追加などを行い、自社の業務シーンで使いやすいツールを作り上げましょう。一般的にカスタマイズには費用がかかります。ベンダーの見積もりをもとに、必要なカスタマイズ項目を絞り込み、早めに予算を確保しておきましょう。
Step5.従業員のトレーニングとサポート体制の整備
MAツールを効果的に使うためには、そのユーザー、従業員が使い方を熟知する必要があります。また、トラブル発生時に業務を止めないためにも、迅速に対応できるサポート体制の確認と整備も重要です。
・従業員のトレーニング
MAツールを導入するにあたり、従業員のトレーニングは重点的に行うべき準備のひとつです。多くのMAツールのベンダーはサポートの一環としてレクチャー(教育プログラム)設けています。実際にMAツールを触りながら使い方を学べるようなレクチャーの機会と時間も想定して用意しておきましょう。レクチャーの内容は一般的に導入直後向けです。社内で新入社員や転属社員に向けたトレーニング体制・運用に関する内容も作れるとよいでしょう。
・サポート体制の整備
ITシステムにはある程度の不具合や突発的なトラブルはつきものです。「ある日突然機能しなくなる」そんな事態への備え、サポート体制も確認し、忘れずに整備しておきましょう。
サポートについては多くの場合「有料」です。料金プランによって「サポートを永続的に受けられるもの」「プラン別にサポート範囲が限られるもの」「オプションのサポートプランを用意するもの」などがあります。サポートコストも製品のランニングコストとして予算に組み入れておくのが望ましいです。
社内にエンジニアやIT担当人員が在籍している会社なら、初期から導入プロジェクトに参画してもらうことも肝要です。小さなトラブルは社内で処理できれば、障害発生から復旧までの期間を短縮でき、重要な業務への支障が出にくくなります。
Step6.モニタリングと評価
MAツール導入後は、ツールで取得できるデータをモニタリングし、見込み客の動向をチェックしましょう。MAツールを導入した効果を計測するため、KPIに基づいた評価をします。
・データのモニタリング
MAツールでは、Webサイトを訪問した見込み客の行動をデータとして獲得できます。どのような経路でサイトを訪問し、何のコンテンツにアクセスし、どのページにどれだけ滞在したかといった動向をモニタリングすることで、ナーチャリングに対する各コンテンツの影響やシナリオの有効性を測定でき、コンテンツのブラッシュアップや改善、シナリオの見直しを行えます。
・効果の評価
MAツールを導入した効果の測定は、ただ数字の積み重ねを見るのではなく、KPIに基づいて行いましょう。想定していた効果を得られているのか、どの指標の伸び悩みがネックになっているか判断するには、成果の予実比較評価が有効です。
目標のKPIに届かない項目は、施策の見直しやコンテンツの追加で改善を図りましょう。
MAツール導入でよくある失敗
MAツールはマーケティング活動の効率を大きく高める、今やなくてはならないツールです。しかし、単に導入すれば必ず成果が出るとは限りません。期待しているほどの成果が出ない失敗例には下記のような原因が考えられます。
- MAツール導入の目的が共有されていない
- 機能を十分に使いこなせない
- Webコンテンツが足りない
- マーケティングと営業の連携が不十分
×MAツール導入の目的が共有されていない
MAツールを活用できない理由のひとつは、「導入目的があいまい」であることです。導入に至った課題や目的が明確でないと、施策の方向性や効果測定の基準から定まりません。導入前に自社の課題と導入成果の目標を明確にし、根拠を持ってKPIやKGIを設定することで、導入の目的が明確になりツールを活用しやすくなるでしょう。
×MAツールの機能を十分に使いこなせない
MAツールで利用できる機能は多岐にわたりますが、すべてを使いこなすにはやはり専門的な知識やスキルが必要になります。ユーザーが使い方を習得しないままでは、成果をとしてあがるのも時間がかかります。自社には「これが必要だ」と定義し、それに応えてくれる製品やベンダーの選定はやはり重要といえます。自社だけで抱え込まず、遠慮なくベンダーに相談を投げかけましょう。そして、ユーザーが使いこなせるまでのトレーニング準備と計画も忘れずに行いましょう。
×Webコンテンツが足りない
リード(活動によって生み出された見込み客)を獲得し、ナーチャリング(顧客育成)していくには、適切な量と内容のコンテンツ/情報が必要です。特に広く長く使えるコンテンツの役割は重要であり、コンテンツ量が不足すると施策の展開が難しくなります。
リードのニーズを把握し、自社商品への興味を強めるためにも、定期的なコンテンツの追加や更新を継続できる体制を整えましょう。
×マーケティングチームと営業チームの連携が不十分
マーケティング活動において発生しがちな課題のひとつに、マーケティング部門と営業部門での「認識のずれ」が挙げられます。例えばマーケティング部門が獲得するリードと、営業部門が求めるリードの「質」あるいは「量」に食い違いがあると、効果的な顧客獲得活動につながりません。これはIT製品の導入に限りませんが……「リードを獲得したのに営業しない、成果をあげない」「そのリードは役に立たないからだ。使えないんだよそれでは」「何だとー!」なんていういざこざも発生してしまいます。
マーケティング部門と営業部門の意識、成果のずれは製品ではなく自社で解決していくものです。導入プロジェクトにおいて定期的に意識のすり合わせの機会を作り、共通した基準となるような「要件」をあらかじめ定めておきたいところです。
MAツールの導入時に失敗しないための主な対策
MAツールの導入には費用と時間の両方でコストがかかります。貴重なコストを費やした導入を成功させるためにも、MAツールの効果を発揮できる対策に力を入れましょう。
・カスタマージャーニーマップを作成する
カスタマージャーニーとは、見込み客が商品の購入に至るまでの過程です。カスタマージャーニーを行動のフェーズごとに分解し、プロセスごとに必要なアクションを定めるカスタマージャーニーマップを作成すれば、MAツールによる分析結果を有効活用できるようになるでしょう。
カスタマージャーニーマップは以下の手順で作成します。
- 具体的なターゲット像であるペルソナを設定
- ペルソナに設定した見込み客が購入に至るまでの過程を分解
- 各フェーズで抱く感情を想定し、課題解決に必要なコンテンツやアクションを用意する
客が購買に至るまでの過程とは、例えば「課題認識」「情報収集」「商品認知」「比較検討」「購入」などの要素を設定することが挙げられます。また、カスタマージャーニーは商品の内容や季節、流行などの影響を受けて変わることも大いにあります。設定したカスタマージャーニーは定期的な見直しや改善を行いながら煮詰めていきましょう。
コンテンツを適切に準備する
カスタマージャーニーの中で必要となるコンテンツが不足していると、見込み客は課題を解決できずにWebサイトから離れてしまいます。設定したペルソナの課題を解決し購買に向かわせるためにも、適切な量と質のWebコンテンツを用意しましょう。
セグメントを設計する
特定の条件を満たした見込み客にコンテンツを届けるためには、セグメントの設定が有効です。セグメントは、見込み客や顧客の属性や特徴、行動で分類したグループです。「Webサイトに一度でもアクセスしたユーザー」「取引先企業の営業部の社員」「展示会で名刺を交換した決裁権を持つ役職者」など、自社との関係性やビジネス上の重要度でセグメントを切り分けると、よりパーソナライズされたコミュニケーションを取れるようになります。
なお、セグメントはタグ付け機能で管理するため、見込み客を複数のセグメントに所属できます。「東京都内に本社がある企業」「営業部」「部長以上」など、細かく設定したセグメントを組み合わせることで、より条件を絞り込みやすくなるでしょう。
運用体制を整える
MAツール導入を機に、社内体制を変更・整えることがおすすめです。運用に必要な人員を確保し、必要な権限や役割、責任を与えることで、ツールを効果的に運用し、適切な効果測定が行なえます。運用体制を整える際に注意したいのが、前述の導入目的の共有です。MAツールの役割と解決したい課題を明確にしたうえで体制を整えれば、高い改善効果が見込めるでしょう。
振り返りの時期を決める
MAツールは定期的に成果を分析することで、施策の効果アップを図りやすくなります。当初の想定通りに効果が出なかった場合には、施策の改善や新しい打ち手を探すといった対策を行えます。振り返りの時期はできるだけ具体的に、「毎週◯曜日」「毎月◯日」と決めて進めましょう。その際、マーケティング部門だけでなく営業部門も共同で振り返りができれば、さまざまな視点から課題と改善方法を見出しやすくなります。
MAツールの活用/導入事例
実際にMAツールを導入してマーケティング活動の改善を図った導入事例を紹介します。
キリンオンラインショップ DRINX×DNP MA運用支援サービス
キリンオンラインショップ「DRINX(ドリンクス)」は、飲料メーカーのキリンホールディングス株式会社が運営する公式通販サイトです。キリンブランドのビール、ワイン、ウイスキーなどのアルコール飲料を扱っています。
MAツール導入前は、商品開発や提供の速度にマーケティング活動が追いつかないという課題を抱えていました。特に保持している顧客情報を有効活用できず、適切なアプローチができなかった点が問題となっていました。
顧客とのコミュニケーション強化を目標にMAツールを導入した結果、ひとりひとりの顧客のニーズに向き合う「One to Oneマーケティング」の実現に成功。顧客ニーズに合わせたコンテンツの配信が行えるようになりました。同時にオペレーションミスの現象と属人化の解消にも成功し、効率のいいマーケティング展開を進められる体制を確立できています。
近畿日本ツーリスト×Oracle Marketing Automation
近畿日本ツーリスト株式会社は、国内から海外まで幅広い旅行サービスを手掛ける大手旅行会社です。民間利用者だけでなく法人や自治体、学校などの団体向け旅行パックの提供にも力を入れています。
法人営業には約1000名の担当者がおり、MAツール導入前は営業活動のプロセスに課題があり、アクションに対して成果が伸びない非効率さが問題視されていました。また、インターネット経由の旅行申し込みの増加が顕著になったことで、デジタルマーケティング強化の必要に迫られていました。
同社は既存の基幹システムにMAツールを連携させ、顧客情報をデータ化。セグメント管理やスコアリングにより、顧客のニーズ分析や適切な商品提案を自動化しました。これにより営業効率が向上し、BtoB営業の飛躍的な強化に成功しています。
ベネッセコーポレーション×Adobe Experience Cloud/Analytics/Target
株式会社ベネッセコーポレーションは、教育、生活、介護、語学など幅広い事業を展開している企業です。同社はWebサイトを入口に、さまざまなサービスに対する資料請求や入会申し込みを受け付けていますが、MAツール導入前には分析に課題がありました。十分なユーザー分析を行うには至らず、また複数ドメインで事業を展開していたため、個々のサイト解析にかけるリソースを確保できなかったのです。MAツールの導入により、一元管理された各ドメインの顧客情報を分析するクロスドメイン分析が可能となりました。ユーザー情報の横断的な管理により、サイト管理・分析にかかるコストを大幅に削減し、コンバージョン数の増加に繋がる施策の展開が容易となっています。
MAツールを導入しマーケティング活動を効率化しよう
MAツールは、企業のマーケティング活動の効率化・自動化を可能にするツールです。見込み客の思考と要望を自動的に分析することで、ニーズを掘り起こす適切なコンテンツの提供が可能になります。非常に有用なツールである一方、準備不足な状態で導入をすると期待した通りの効果は望めません。
MAツールを導入して解決したい課題を把握し、実現できるだけの予算と人材を確保したうえで運用をはじめましょう。
「自社に合うIT製品・サービスが分からない」「時間をかけずに効率的にサービスを検討したい」というご担当者様は、ぜひITセレクトのコンシェルジュサービスまでお問い合わせください。適切なIT製品・サービスのご紹介や各種資料をご提供します。
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