ホテル業界で顧客満足度を高めリピーターを増やすためには、顧客管理の高度化と効率化、つまりCRM(Customer Relationship Management/顧客管理システム)の効果的な活用がカギとなります。本記事では、CRMが顧客情報の一元管理や顧客視点のサービスの提供を通じて、売上拡大や業務効率化をどのように実現するのか、その具体的なメリットや導入ポイント、成功事例を詳しく解説します。
目次
ホテル業界でCRMを活用するメリットとは
CRMは顧客情報の収集や分析だけにとどまらず、ホテル業務全体の効率化やサービスの質向上にも貢献します。CRMの導入によって得られる5つの具体的なメリットは以下の通りです。
- 顧客情報を一元管理できるようになる
- 効果的なマーケティング施策を実現できる
- 業務効率の向上とスタッフの負担を軽減できる
- リピーター顧客の増加を実現できる
- 顧客からのフィードバックをすぐに反映できる
1.顧客情報の一元管理ができる
CRMを導入することで、顧客の予約履歴や過去の宿泊体験、要望などの情報を一元的に管理することができます。この情報はすべてスタッフ間で共有できるため、どの担当者が対応しても一貫性のあるサービスを提供することが可能です。このことはホテルのサービス全体の質の向上につながります。
また、個々の顧客に合わせたサービスを個々適切に提供できるようにする(=パーソナライズと言います)ことで、顧客の満足度を高める、リピーターを増やしていく成果も見込めます。例えば、過去の滞在時に好んだ料理や部屋の設定を踏まえて、再度宿泊する際に同様のサービスを提供することで、顧客の体験がさらに充実します。
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2.効果的なマーケティング施策を実現できる
CRMを活用すれば、顧客データをもとに属性や利用状況を細かく分析し、それに基づいた効果的なマーケティングを行うことができます。例えば、特定の年代層や利用回数の多い顧客に向けて、最適なプロモーションやキャンペーンを提供しやすくなります。
さらに、CRMを使えば、自動メッセージの送信も可能です。特定のイベント時に合わせたメッセージや、リピーター向けの特別プランの案内など、顧客のタイミングに合わせたプロモーションができ、ホテルの収益アップにもつながります。
3.業務効率の向上とスタッフの負担を軽減できる
CRMの導入により、スタッフ間での情報共有が円滑になり、業務の効率化が進みます。特に、顧客の予約やリクエストに関する情報を簡単に共有できるため、引き継ぎもスムーズに行えます。これにより、担当者が不在のときでも他のスタッフが迅速に対応でき、顧客へのサービスが途切れることはありません。
また、CRMを使うことで、手動で行っていた業務の一部が自動化され、スタッフの負担を減らすことが可能です。例えば、特定のプロモーションに合わせたメール配信や、定期的なアフターフォローなど、ルーチン業務を効率よく進めることで、より重要な業務に集中できる環境が整います。
4.リピーター顧客の増加を実現できる
CRMの活用により、顧客の好みや過去の利用状況を把握し、誕生日や記念日などの特別なイベントに合わせたサービスを提案できるようになります。このように、顧客に対して個別の対応をすることで、満足度が上がり、リピーターの増加を期待できます。
例えば、過去に特定のプランを利用した顧客に対して、似たようなプランを提案する、あるいは前回の滞在時に気に入ったサービスを再度提供することで、顧客の忠誠心が高まり、リピート利用が促進されます。
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5.顧客からのフィードバックをすぐに反映できる
CRMでは、顧客からのフィードバックやアンケート結果を蓄積し、サービスの改善に役立てることができます。例えば、滞在後のアンケートで得られた不満点や要望を迅速にシステムに取り込み、次回の宿泊時にそれを反映させることで、顧客満足度を向上させることができます。
CRMの導入時に考慮すべきポイント
CRMをホテル業界で導入することには多くのメリットがありますが、効果的に活用するためにはいくつか重要なポイントを押さえておく必要があります。特に考慮すべきとされる4つの視点を解説します。
- マルチチャネル対応が可能か
- 既存システムと連携できるか
- 操作性と拡張性に問題ないか
- 導入後に十分な費用対効果を得られるか
1.マルチチャネル対応が可能か
ホテル業務では、さまざまな手段(=チャネル)を通じて顧客とやり取りを行います。例えば、電話、メール、チャット、SNS、Webサイト、他社含めた予約サービス、そして対面など、複数の手段で客のニーズに沿って予約受付や問い合わせ対応を行うことでしょう。
この観点を踏まえることで、顧客は自分にとって使いやすい手段で利用しやすくなり、自社も顧客対応の管理やプロセス、ルールを統一し、一元して管理できるようになります。結果として顧客とのやり取りがスムーズになり、サービスの質を向上させることができるでしょう。導入を検討する際は、CRMが電話、メール、SNS、Webなど自社の需要に沿った多様なチャネルでの管理に対応しているかどうかを確認しましょう。
2.既存システムと連携できるか
すでに他業務システムを導入し、ホテル運営しているとも思います。その代表例として宿泊管理システム(PMS)、予約システム、POSシステムなどが挙げられます。これらのシステムとのスムーズに連携も、CRM導入の成功において重要な要素です。
これらの既存のシステムと連携できれば、データの二重管理や手動/個別管理に由来するミスや誤認の可能性もなくし、業務の効率化や確実性の向上につながります。やはりポイントは、業務にまつわる情報=データを一元化することです。例えば、宿泊予約の履歴や顧客の好みをPMSやPOSから自動的にCRMに取り込み、全スタッフが必要な情報にアクセスできるようにすることで、サービスの一貫性を保つことができます。
3.操作性と拡張性に問題ないか
CRMに限らず、ITシステムは実際に現場で働くスタッフが問題なく使いこなせることも重要です。操作が複雑であれば、業務効率が落ちたり結局は利用されなくなったりする可能性があります。直感的に操作でき、誰でも……少なくとも自社にとって使いやすいCRMを選ぶことが大切です。
また、様々な変化に対応できる柔軟性のあるシステムであることへのニーズも増えています。自社の成長や業界・需要の変化などに伴う事業戦略の変化や修正は数年程度のスパンであり得ます。まずはサービスの種類が増えたり、顧客層が変わったりした場合どうなるのか、といった予想し得る観点から、CRMが備える機能とともに機能カスタマイズをどのように/どこまでできるかどうかを確認していくとよいでしょう。
4.導入後に十分な費用対効果を得られるか
CRMの導入には初期費用や運用コストがかかります。導入前に費用対効果を十分に検討することが必要です。単に機能が豊富で、著名な、実績が多く挙げられている製品であればよいとも限りません。自社が直面している課題を解決できるかどうか、またそのCRMが本当にコストに見合った効果をもたらすかを判断することが必要です。
特に、多くの場合サブスクリプション型の料金形態であるクラウド型製品は初期費用を抑えられる利点がある半面、利用コスト=運用コストは月額あるいは年額でかかり続けます。この固定コストが長期的な負担になる可能性もあります。導入前に運用費用、サポート体制などを含め、コスト全体を見据えて選ぶことが効果的なCRM導入には欠かせません。
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ホテル業界のCRM導入事例
CRMを導入したことで、ホテル業界では顧客との関係強化やサービス向上が実現されています。ここでは、具体的にCRMを活用して成功を収めている3つのホテルを紹介し、どのツールが活用されているかを解説します。
西武・プリンスホテルズワールドワイド×Salesforceの場合
西武・プリンスホテルズワールドワイドは、日本国内外でホテルやリゾート施設を運営しており、多くの顧客情報を蓄積していました。しかし、情報を有効活用できていないという課題があったため、CRMツールとして「Salesforce」を導入しました。
Salesforceの「Marketing Cloud」を活用し、メールマーケティングを強化しました。誕生日や記念日に合わせて特別なメッセージを送るなど、シナリオに基づいた個別対応を行うことで、顧客の開封率が向上しました。また、送信タイミングを柔軟に調整できる機能により、顧客に最適なタイミングでのアプローチが可能となり、リピーターの増加にもつながっています。さらに、メールのシナリオを複数化し、広告の最適化も実施して、顧客のニーズに細かく対応しています。(※ 2021年10月時点の情報です)
マイナーホテルズ×Zoho CRMの場合
マイナーホテルズは、アジア、欧州、中東などで530軒以上のホテルやリゾートを展開するグローバル企業です。顧客情報をスプレッドシートで管理していましたが、膨大なデータを効率よく管理するために「Zoho CRM」を導入しました。
Zoho CRMは、営業活動の管理や自動化を強化し、営業プロセスを可視化することで効率化を実現しました。ワークフロールールによって、リードが新規に登録されると自動でフォローアップが設定されるため、営業チームは顧客対応に集中できる環境が整いました。また、経営陣はZoho CRMのレポート機能を活用し、ビジネス状況や営業データをリアルタイムで確認し、データに基づいた意思決定が迅速に行われるようになりました。(※ 2024年10月16日時点の情報です)
星野リゾート×F-RevoCRMの場合
星野リゾートは、国内外で「星のや」「リゾナーレ」「界」などのブランドとともに、都市観光型に位置付ける新たなブランド「OMO」も展開しています。このOMOでの宴会事業の拡大に向けた営業活動を強化する目的で「F-RevoCRM」を導入しました。
F-RevoCRMの役割は、営業フローを整備し、法人向け営業活動の含めて活動情報を一元管理すること。属人的になりがちだった営業活動において、CRMの導入により顧客との接点を体系的に管理できるよう改善しました。また顧客情報を蓄積し、全スタッフが同じ情報を共有することで、チーム全体で効率的に営業活動を行えるようになっています。提案タイミングやフォローアップの適切な実施が可能となり、宴会事業の業績向上に貢献しています。(※2024年3月16日時点の情報です)
ホテル業界におすすめのCRMツール5選
以下では、ホテル業界におすすめのCRMツール製品5選を紹介します。
(製品名abcあいうえお順/2024年10月時点)