製造、物流、販売、eコマース業などを中心に「在庫」を正確かつ効率的に管理し、効率化するIT製品「在庫管理システム」を導入し、成果を上げる企業が増えています。その一方で「コストがかかるので……」「どう選べばよいのか分からない」などで、従来の方法に課題があるのは分かっていつつも脱却できない状況にある企業も多くあります。
本記事では、そんな企業に向け、まずは「無料」で始められる在庫管理とともに、クラウド型/SaaS型在庫管理システムの利点や選び方のポイントを詳しく紹介していきます。最初はコストをかけずに、在庫の管理と最適化を実現できる方法を検討してみてはいかがでしょうか。
目次
無料で在庫管理を行う方法
無料で・追加コストをかけずに在庫管理を行う方法をいくつか振り返り、併せて確認しましょう。少し長くなるので、「早くおすすめ製品を教えて」という人はこちらからどうぞ!
手書き管理
手書き管理は最も簡単で直感的で、旧来からある方法の1つです。特別な技術やツールを必要とせず、どんな業種でもすぐに始められます。例えば、ノートや紙を使って在庫リストを作成し、入出庫の際に手書きで記録を残すといった管理方法です。
しかし手書き管理は、人の手で作業するので記録ミスや情報の紛失がどうしても発生してしまう課題があります。効率的かつ正確さを高める運用のために在庫リストのテンプレートを作り、入出庫のタイミングで必ず記録を行うといったルールを設ける手段などが有効ですが、在庫量が増加したり、複数人で在庫管理を行う場合には限界があります。デジタルには不慣れといったシーンも大いにありますが、やはり必要に応じてデジタルツールへの移行を検討することが勧められます。
エクセル(スプレッドシート)管理
ノートや紙への手書き記録に続く、エクセル(Microsoft Excel)管理の方法も旧来よりあります。エクセルやGoogle スプレッドシートは多くのビジネスシーンで既に広く使われており、ユーザーの習熟度もそれなりにあり、新しいソフトウェアを導入するコストもかかりません。
そして「計算ミス」をするリスクを減らせます。エクセルで計算しつつ、基礎データを一元化して管理することで、少なくとも「数値」におけるミスが起こりにくく、また検算、確認もしやすく、数や金額の誤りなく在庫管理ができるようになります。汎用性の高いCSVなどの形式へ変換し、他システムと連携させることも比較的簡単に行えます。
しかし、エクセル(Excel)そのものに人手の入力や選択ミスを防ぐための機能は備えません。できないことはありません。しかし、使う人/作る人によってできることの限界が大きく変わるのです。人的ミスの発生リスクは残り、データの消去・紛失、そして漏えいといったリスクも残ります。
在庫管理アプリ
スマートフォン向けに無料で公開されている在庫管理アプリを活用するシーンも増えています。一般的に、在庫管理システム、在庫管理ソフトウェアに含まれるツール/機能の1つとして、実作業者のPC(パソコン)、およびスマートデバイス(iPad、iPhone、iOS/Android端末などのスマートフォン/タブレット)上で機能する操作管理用アプリケーション/ソフトウェアのことです。
スマホやタブレットのような手ごろで可搬性の高い端末でも扱え、バーコードやQRコード、POSレジ、ハンディターミナルなど業務で併用される他の機器との連携が考慮されたものも多くあります。スマホでの利用に特化した専用アプリやページを用意する製品も多くあります。いずれもシステムと連携することで在庫数が自動的に反映され、手入力で起こりやすいヒューマンエラーを防ぎます。
オープンソースの在庫管理ソフトウェア
オープンソース型ソフトウェアは多くの場合ライセンス料がかからず、無料で使えます。利点として特定のニーズにも対応できるよう高いカスタマイズ性があり、またコミュニティなどによるサポートも用意されます。
例えば、オープンソース型ERPである「Odoo」は、在庫管理のほかに、販売、購買、会計などの機能別モジュールを組み合わせて運用していくことができます。
しかし、導入やカスタマイズ、保守にはある程度の専門的な技術知識が必要です。また自社運用型にせよ、クラウド(IaaS、PaaS)でインフラ/プラットフォームを調達するにせよ、構築基盤の導入・運用や管理には相応のコストがかかります。
クラウド型在庫管理システム
クラウド型/SaaS型在庫管理システムは、昨今企業の導入シーンで主流であるITの利用形態/サービスです。
まず、クラウド型システムはインターネット環境と適当な表示デバイス(会社のPCから、出先や自前のPC、スマートフォン、タブレットなど)さえ用意すれば、どこからでも利用できます。例えば、複数の拠点、店舗や事業所が複数ある場合でも、各店舗や拠点の在庫状況を一元管理できます。これらの情報整理の作業の大部分を自動化し、そしてリアルタイムでの在庫補充体制や販売促進策を即座に実施するような体制づくりが可能になります。
また、システムの自動更新により常に最新の機能を利用でき、またセキュリティパッチなども自動で適用されるため、セキュリティリスクも低減できます。データのバックアップも自動で行われるため、データ喪失のリスクが少なく、在庫管理の確実性、そしてビジネスの継続性を確保できます。
初期費用を低く抑えられ、かつ、必要に応じて、ネット上の手続きだけで料金プランや機能を追加/削除できること(スケーラビリティ)も特徴です。自社ビジネスの成長に沿って自在に拡張する、煩忙期と閑散期で分けるといったような、これまでのソフトウェアでは難しかった柔軟な運用が可能です。これにより、運用コストの削減と効率化が図れるため、特に中小企業にとって大きなメリットとなります。
在庫管理システムとは?
在庫管理システムとは、企業が在庫を効率的に管理し、最適なレベルで維持するためにあるIT製品です。在庫過剰や欠品を防ぎ、業務の効率化とコスト削減を図ることが主目的です。
主な機能には、
- リアルタイムで在庫状況を把握できる機能
- 在庫の自動更新機能
- 発注管理機能
- 在庫の評価と報告機能
があります。また、複数の拠点や倉庫の在庫をまとめて一元管理することも可能です。
メリットとして、まず在庫コストの削減が挙げられます。適切な在庫レベルを維持することで、不要な在庫費用を削減できます。
また、在庫の可視化により、欠品リスクを低減し、販売機会を逃すことがなくなります。さらに、手作業による在庫管理の手間が省けるため、業務効率が向上し、ヒューマンエラーも減少します。総じて、在庫管理システムは企業の在庫に関する全体的なパフォーマンスを向上させ、経営の効率化と利益の最大化に貢献します。
小規模または中小企業にとって、在庫管理は特に重要な課題です。しかしコストや導入の手間・難易度を考えると、システムを導入することは難しいと躊躇してしまう場合もあります。
クラウド型製品の中には無料で利用できる在庫管理システムも存在します。製品それぞれで特徴や機能、無料でできる範囲は異なりますが、基本的な在庫管理機能を備え、ITに特段詳しくはない人も比較的簡単に、時間を掛けず柔軟に導入しやすい特徴があります。クラウド型製品により、低コストで効率的な在庫管理の実現が期待できます。
なぜ在庫管理が重要か
在庫管理はビジネスにおいて特に重要なタスクであるのは皆さんご存じのはずです。在庫管理は、無駄なコストを削減し、効率的な事業運営を可能にするためにあります。正確な在庫情報は需要予測や再注文時期の決定に欠かせない要素です。
例えば、在庫過剰な状況は保管コストの増加や製品の廃棄リスクを引き起こします。一方で、在庫不足は販売機会の損失や顧客満足度の低下を招きます。これらの問題を避けるためには、在庫状況を常に把握し、適切な在庫レベルを維持することが必要です。いくつか業種・業界別に在庫管理の重要性を振り返ってみましょう。
・小売業の場合
小売業の場合は、正確な在庫管理が収益に直結します。
在庫不足が発生すると、販売機会を逃し、売上が減り、そして顧客満足度の低下につながります。
過剰在庫も倉庫コストを圧迫し、また販売時期を逃したり、原価割れで販売する事態に陥ったりするリスクを抱えることになります。
・製造業の場合
製造業の場合は、部品と原材料を含めて広範囲に在庫管理することが求められます。そのため正確な在庫管理は生産効率と密接に関連します。
仮に特定の部品1つが不足していただけで、生産ライン全体を停止する事態に陥るかもしれません。多種多様な部品をたくさん使い、多くの人手や時間を掛けて1つの製品として製造される自動車や電化製品などを想像するとより分かりやすいことでしょう。
・物流業の場合
物流業界の場合は、輸送と倉庫の運用に影響を与えます。在庫情報は運送計画や配送スケジュールにも密接に関わりを持ちます。
過剰在庫は倉庫を物理的に圧迫し、また運送計画に破綻が生じる恐れがあります。逆に在庫不足で配送物が少ないとしても、輸送力や人員体制、コストに大きな無駄が生じる可能性があります。
適切に在庫管理することで効率的に倉庫を運用でき、また適切な輸送計画を実行することにつながります。
・eコマース業/ECサイトの場合
eコマース業の場合は、商品がオンラインで販売されるため、正確かつ「リアルタイム性」のある在庫管理が売上と顧客満足度に直結します。
不正確な在庫情報・在庫データや在庫不足は注文、そして販売の大きな障害になります。適切に販売できなければそもそも売上機会を逸しますし、在庫不足などで配送遅延を招けば顧客の不満につながるだけでなく、ライバル社に顧客を奪われてしまいます。
無料で始められる在庫管理システム 有料版との違い
在庫管理システムには、小規模シーン向けに無料プランを用意する製品もいくつかあります。無料版から考えるのも在庫管理システム導入の大きな第一歩になるでしょう。
無料版のメリットは、コストを踏まえて「スモールスタートできる」「試用できる」ことです。個人事業主や個人商店、小規模企業ならば、無料プランで十分と判断できることもあり得ます。また、有料プランに比べて機能が絞られる分、導入が簡単で専門知識も不要に使える場合もあるでしょう。
まずは無料プラン、あるいは無料トライアルのある製品を試し、どんな機能があるのか、どう活用できそうかといった自社の要件に合っているかどうかを「お試し」した上で、必要に応じて有料プランへの移行を検討することもできます。
なぜ無料なのか、どこまで無料で使えるのか
クラウド型/SaaS型のIT製品は原則として「有料」であることは念頭に置いてもらいつつ、「無料版」は一定の条件のもとで個人事業主から中小規模シーンでの導入に向け、または選定・検討に向けたお試しのために用意される、「無料プランのある製品」あるいは「無料トライアルを用意する製品」を差します。
一定の条件とは、利用できる機能が基本的なものに限られる/利用できるユーザー数に制限がある/保存できるデータ数に制限がある/保存期間に制限がある/広告が表出するなどがあります。
以下の条件・制限を理解した上で、その範囲で使えると判断できるならば無料プラン、あるいは無料トライアルで「無料の範囲で試験的にスモールスタート」し、システムの機能や効果を検証したいといったシーンに無料版は適しています。
在庫管理システム 無料版と有料版の違い/機能差
無料版の在庫管理システムは多くの場合、以下の機能・仕様に制限があります。もちろん製品によって/製品固有の特色に応じて制限の有無や範囲、ほかいくつかに差異はあります。製品選びにおける機能の有無や仕様を調査するポイントに据えるとよいでしょう。
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ユーザー数の上限
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在庫アイテム数の制限
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データ保存期間の限定
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サポート体制/メニューの制限
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レポート機能の制限
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他システムとの連携機能の制限
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より高度な機能の制限
ユーザー数の上限
無料プランは1~2ユーザー程度、有料版は料金プラン別に数十、数百~無制限です。無料版は個人事業主・小規模企業やチーム・部署単位向け、有料版は中小~大規模企業向けとなります。
在庫アイテム数の制限
無料プランでは「管理できるのは最大●アイテムまで」といった制限があります。有料版は無制限となるでしょう。小規模ビジネスなので無料プランの範囲で足りるといった判断の仕方もできます。
データ保存期間の制限
過去データを保存しておける期間の制限です。無料プランは最長で●年まで、対して有料版は契約し続ける限り永久にといった差があります。無料版は特定シーンや短期プロジェクト向け、有料版は長期的なデータ管理や分析などを行うならば必要となるでしょう。
サポート体制/メニューの制限
一般的にサポート、特に人力・専門スタッフによるサポートは相応にコストが掛かります。そのため無料プランは多くの場合、サポートメニューや範囲が限られます。無料プランでは例えば、Webでのヘルプページやユーザーコミュニティコーナー程度は用意されるものの、対人サポート・専門スタッフへ直接聞く/即時対応を求めるといったサポートは範囲外、あるいは有料となります。一方の有料版は、導入・活用初期の支援から運用中のトラブルサポート、24時間365日サポート、即時対応支援なども期待できます。
レポート機能の制限
無料プランは多くの場合基本レポートのみ、対して有料版は高度な分析を含めたカスタムレポートやにも対応するといった差異があります。有料版は詳細にデータを活用し、戦略化を強化していきたいシーンには必要となるでしょう。
他システムとの連携機能の制限
有料版は多くの外部システムとの連携性も考慮されている/機能を備えていることが多いです。無料プランは単体/シンプルな運用/本格導入に向けたスモールスタート用で、一方の有料版は高度な業務統合を考えているシーンで必要になります。
より高度な機能の制限
無料プランは基本機能こそ使えるものの、有料版に備わる高度な機能は省かれることが多いです。例えば「自動発注機能」のような、特に利便性を高め、製品のウリ/独自である、そして自社のニーズとしても合致する機能の有無があるかどうかによって、無料プランで大丈夫か、それとも、ゆくゆくは有料プランにすることを前提に計画するのかを定めていくことになるでしょう。
無料の在庫管理システムの選び方
ここからは、無料で始められる在庫管理システムの選び方のポイントをご紹介します。
- 自社のニーズに合っているか
- カスタマイズが柔軟にできるかどうか
- ユーザーフレンドリーか/自社に合う使い勝手かどうか
- デモと無料トライアルは遠慮なく活用する
ビジネスのニーズに合っているか
まず、ビジネスの具体的なニーズを明確にしましょう。
どのような商品や資産を管理し、どの程度の在庫を扱うかを把握します。
カスタマイズが柔軟にできるかどうか
自社の業種やプロセス、要件に合わせて柔軟にカスタマイズできるかも重要なポイントです。
カスタマイズ可能であれば、独自の要件に合わせて機能を調整できます。
また、既存のプロセスを最適化して、さらなる運用の効率化も図れます。
自社のニーズに合う使い勝手か
利用者が使いやすいシステムであれば、トレーニングや導入がスムーズに行えます。
また、使いやすく直感的なUIは誤操作を防止できるため、生産性の向上も期待できます。
デモと無料トライアルは遠慮なく活用する
候補に絞った製品やシステムについて、デモを見たり、試用版/無料トライアル版を使ったりして、具体的な操作感や機能、カスタマイズすべき要素や機能を確認していきましょう。無料プランからスモールスタートしてみるのもよいでしょう。
これは、システムが実際の業務に適合するかどうかを確認するとても重要な行程です。評価時と同様に、機能や操作感、どこまでカスタマイズが可能か/応えてくれるか、などを遠慮なくベンダーに聞いて、納得いくまで確認します。
これらのことに寄り合ってくれる/信頼できるベンダーかどうかなども見極めつつ、導入する製品を絞り込んでいきましょう。
(参考)在庫管理でよく使われる用語
SKU(Stock Keeping Unit) | 個別の商品や商品のバリエーションを管理するための識別番号で、最小の管理単位になる |
在庫回転率 | 一定期間内(主に1年間)にどれだけ早く販売して在庫がなくなり、再注文するサイクルを回したかを示す指標で、在庫回転率が高くなるほど効率的な在庫管理を示す |
発注点 | 在庫が減っていき、補充商品の発注が必要になる在庫レベル |
安全在庫 (セーフティストック) |
予測外の需要変動で、在庫不足が発生しないための余分な在庫のこと |
ABC分析 | 商品を在庫回転率の高さに応じてA、B、Cの3段階に分類し、管理の重点を設定する方法で、Aは最も高く、その次にB、Cと続く |
バーコードスキャニング | 商品に割り当てられたバーコードを使用し、在庫アイテムを素早く識別してトラッキングする技術 |
バッチ管理 | 類似した商品をグループ化して一括で処理し、在庫を追跡する方法 |
ロット追跡 (ロット管理) |
商品をロット番号で識別し、製造から販売までを一元管理することで、適正在庫の保持に役立てたり、不良品の発生時に追跡しやすくする方法 |
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