請求書は会社の入出金を証明する重要な書類です。適切な管理が必要となる証憑書類であり、各種法や税制度に則って適切な方法で保管しなければなりません。自社として請求書類を適切に管理し保管する体制を正しく整えるために、インボイス制度や電子帳簿保存法などの関連法の理解も深めておくことが大切です。本記事では、請求書の管理方法や保管期間、請求管理システムを導入するメリットと、インボイス制度、電子帳簿保存法に正しく対応する方法を分かりやすく解説していきます。
目次
請求書管理の基礎知識
請求書の基本的な管理方法や保管期間、管理する際の分類例を以下でご紹介します。
請求書の管理方法
顧客から請求書を受け取った際は、まず「未払い分」として管理します。その後、請求内容に沿って支払いを完了させて「支払い済み」の請求書として保管するのが基本です。
前提として、未払い分の請求書を一時的に保管する保存先を設けておくとよいでしょう。未払い分と支払い済の請求書を同じ場所で管理すると支払い状況が把握しづらくなってしまいます。
顧客に請求書を発行する場合は、発行した請求書の控えを未入金分として保管します。入金を確認次第、入金済請求書として管理しましょう。
請求書の保管期間
請求書には、保管期間が定められています。法人であれば7年間、個人事業主であれば5年間が保管義務です。この保管期限は確定申告期限の翌日から起算したものであり、請求書の発行から起算した期間ではないため注意しましょう。例えば3月を決算月に設定している場合、申告の期限は5月31日となります(法人の確定申告期限が事業終了日の翌日から2ヶ月以内と定められているため)。したがって、請求書の保管期限は6月1日より開始となるのです。
請求書の管理における分類方法
請求書の分類方法としては、未払い/支払い済/未入金/入金済などの支払い状況で管理する方法が挙げられます。
ただし、支払い状況別に分類すると、単位が細かくなるため管理作業が煩雑になる可能性もあります。以下の分類方法と組み合わせて、効率的な管理方法を模索すると良いでしょう。
管理方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
月ごとに管理する | ・月別の請求内容を管理しやすい
・取引先が少ないケースに適している |
・取引先別の情報管理がしづらい |
取引先別に管理する | ・取引先ごとの請求内容を個別で把握しやすい
・取引先が多い場合の管理に向いている |
・月ごとの請求内容は管理しづらい |
請求書の管理に用いる主な手段
請求書管理を行えるツールとしては、エクセルなどの表計算ソフト、オンプレミス型請求管理システム、クラウド型請求管理システムなどが挙げられます。以下より、それぞれの特徴や強み、使用時の注意点を紹介します。
エクセルなどの表計算ソフトウェア
エクセル(Micrsoft Excel)などの汎用オフィスソフトウェアで請求書を管理する場合は、「管理用フォルダ」「請求先リストの保管フォルダ」「請求書作成用のフォルダ(雛形の保管先)」をそれぞれ作成して、分かりやすくファイルを区分して実施するとよいでしょう。
それぞれのフォルダ名やファイル名は、管理しやすいように【管理用】とファイル名の冒頭に入れるなどして分かりやすくしておきます。命名規則を定めておくと、時間が経ったあとも目的のファイルが探しやすくなります。
エクセルなどの汎用オフィスソフトウェアやツールは多くの人が使い慣れているので手軽に使用できる反面、手入力、手作業による人的ミスが発生しやすいのが難点です。また、請求書の数/データが増えるほど管理作業が煩雑になっていくデメリットもあります。
オンプレミス型の請求管理システム
オンプレミス型の請求管理システムは、自社サーバにシステムを構築して各種機能を使用するタイプです。適切に管理できれば自社範囲のセキュリティ性を保ちつつシステムを運用できます。加えて、自社で使っている他システムと連携させたり機能を追加したりといった拡張性も自社の範囲内で行えます。ただし、高額になるサーバやネットワークインフラ、設備も自社の責任下で構築するため、コストは相応に高くなる傾向です。
クラウド型(SaaS)の請求管理システム
クラウド型(SaaS)の請求管理システムは、ハードウェア類の用意なしに、インターネット経由でサービスや機能を利用できるタイプのシステムです。ネット環境と操作デバイスがあれば、いつでも、どこでもアクセスできる環境を整えられます。サーバなどのハードウェア類を調達する行程が必要ないので、端的には「ネットで申し込む」だけで導入できてしまう「早さ」が何よりのポイントです。そして、サーバ・ハードウェア類を自社で運用管理することも不要なので、導入コスト、運用コストを抑えやすい/予算として計算しやすいといったコスト面の利点にもつながります。
その一方で、特にSaaS型は「あらかじめ用意されている機能から使う」が基本になるので、自社のワークフローやニーズを満たせるかの点を見極める行程は重要です。また、「利用はインターネット経由で、外部企業のサーバを使用する」となるクラウド型サービスの性質上、オンプレミス型と比較すると特に、セキュリティ性の観点も課題になります。
とはいえ、クラウド型(SaaS)請求管理システムは比較的コストを抑えながらスピード感を持って導入しやすく、保守やメンテナンスの手間も少ないためIT人材不足やインフラ整備が難しい中小企業に特に向いています。次の項目では、クラウド型の請求管理システムを導入するメリットについてご紹介します。
クラウド型の請求管理システムを導入する主なメリット
コストやヒューマンエラーの削減、業務効率向上、各種制度変更への対応など、クラウド型の請求管理システムで実現できるメリットをご紹介します。
コスト削減につながる
クラウド型請求管理システムであれば、導入コスト、運用コストが抑えやすい利点があります。クラウド型サービスは原則として、月額あるいは年額で費用を支払うサブスクリプション型が主流です。
クラウド型請求書管理システムは例えば、小規模であればユーザー1人あたり数百円/月から、比較的大きな規模であれば数千円~1万円/月ほどが平均的です。個人事業主や小規模シーンに向け、機能を抑えつつ無料(月額0円)で使えるプランを用意する製品もあります。
請求管理業務をオンライン上で完結させられる、ということは請求書の印刷や郵送の必要もなくなります。これは自社だけでなく取引先の事情も絡むので請求書は全てデジタルデータで──とはできないシーンもありますが、用紙代をはじめインク代や封筒代、送料、人件費などの運用コストをカットできる要素もかなり大きいといえます。
業務効率を向上しやすい
請求内容の自動入力や請求書の発行、送付などの作業をシステム上で行えます。したがって、請求書の印刷や会社印の押捺、封入作業、郵送手配などといった工数の削減が可能です。請求書の到着確認や入金状況などもシステム上でチェックでき、各種確認作業の手間も減らせます。テンプレート機能を実装しているシステムも多く、見やすい請求書を短時間で作成できるのもポイントです。
ヒューマンエラーを軽減できる
クラウド型請求管理システムを導入することで、これまで手作業で行っていた各種入力作業や計算作業を自動化できます。受注データから締め日ごとの請求書を自動作成したり、取引データを連携させて請求内容を確定したりといった作業をシステム上で自動的に行えるのが特徴です。請求書の作成から発行までを自動で行えるため、手作業による各種データの転記や金額計算も不要となります。
「カネ」に関わる請求漏れや入力ミス、計算ミスは会社としての信用も損ねます。システムによってヒューマンエラーを軽減することは、信用失墜のリスクを軽減することにもつながります。
リモートワークに対応しやすい
クラウド型システムであれば、ネット回線と各種デバイスがあれば時間や場所を選ばず請求業務を実行できるため、リモートワークに対応しやすいのが魅力です。紙ベースの請求書管理では、「請求書そのものを確認するために出社しなくてはならない」という課題がありました。クラウド型請求管理システムであれば、こうした課題も解消できます。
メール送信よりもセキュリティが高い
クラウド型請求管理システムには、請求書の自動配信機能が搭載されているものもあります。これらの活用によって人的ミスに由来する誤送信(情報漏えい)も防止できます。加えて、請求書データの閲覧や編集権限を細かく設定できたり、通信を暗号化したりといったセキュリティ機能も備わっているため、メールで請求書を送信するよりも情報漏洩のリスクを軽減できるのがメリットです。
情報を検索しやすい
デジタルデータは、必要な情報を即座に検索、抽出できます。検索できる情報はシステムによって差異がありますが、特定の顧客や取引時期、支払い期限、請求書のステータス、作成者などさまざまな情報で請求書を絞り込み、探しやすくなります。これは特に、「過去の取引の税務調査が必要となった」「特定の時期の請求内容を調べたい」といったケースで効果を発揮します。国税庁による質問検査や調査の際の対応もスピーディーになるでしょう。
他のシステムと連携しやすい
会計システム、SFA(営業支援システム)、販売管理システム、CRM(顧客管理システム)など、顧客情報を扱う別のシステムと連携できる請求管理システムも少なくありません。例えば、会計ソフトと連携させれば必要な数値情報を自動集計でき、集計の工数を削減できます。データの重複入力も防げるでしょう。
営業支援システムや顧客管理システムと連携させることで、営業業務と請求管理業務を一元管理できるようにもなります。「どのようなシステムと連携させられるか」「どのような業務を効率化したいか」といった点を事前に考えれば、さらなる工数削減や生産性向上につなげられるシステムがどれかを選別しやすくなります。
法制度の変更に対応しやすい
クラウド型の請求管理システムの保守やメンテナンス、各種アップデートは、サービスの提供会社によって行われます。加えて、多くのクラウド型製品はオンラインでサービスを提供する強みを生かし、法制度の改正内容に沿って機能アップデートが提供されます。インボイス制度や電子帳簿保存法をはじめとする法改正に、自社としても「製品を使っていれば自動的に」対応できる安心感は大きいといえるでしょう。
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インボイス制度に対応した請求書の管理方法
適格請求書(インボイス)を発行する場合の対応と、受け取った請求書を仕分ける際の対応を以下で解説します。
請求書を発行する場合
インボイスの請求書を発行する際は、課税事業者として適格請求書発行事業者への登録申請を行う必要があります。申請は税務署で対応してくれます。しかし、申請すればすぐに申請内容が受理されるわけではありません。税務署に対して「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、審査を受ける工程があるためです。「適格請求書発行事業者の登録申請書」登録申請書に登録希望日を記載しますが、この時記載する希望日は登録申請書の提出日から起算して15日以降の日付を記入する必要があります。
なお、適格請求書の発行が免除される具体的なケース例としては、以下のとおりです。
- 3万円未満の公共交通機関(バス/鉄道/船舶)
- 出荷者等が卸売市場において実施する生鮮食料品等の販売
- 生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等に委託して行う農林水産物の販売
- 3万円未満の自動販売機および自動サービス機により行われる商品の販売等
- 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストへ差し出されたもののみ)
請求書を受け取る場合
請求書を受け取る場合は、顧客が課税事業者でありなおかつ適格請求書発行事業者か、免税事業者か否かをチェックしなくてはなりません。適格請求書発行事業者と免税事業者では、仕入税額控除の算出方法と控除の割合が異なるためです。適格請求書発行事業者であれば100%の仕入税額控除が認められますが、免税事業者の場合は一定期間までの経過措置により仕入税額控除の割合が変動します。
具体的な措置の期間と割合は、以下のとおりです。
- 仕入税額相当額の80%:2023年10月1日から2026年9月30日まで
- 仕入税額相当額の50%:2026年10月1日から2029年9月30日まで
- 仕入税額控除が認められない:2029年10月1日以降
なお、仕入税額控除の算出方法には「個別対応方式」または「一括比例配分方式」の2種類があります。個別対応方式を採用しているケースでは、課税取引を個別に分類して計算可能です。ただし、あらかじめ各取引のケースがインボイスへ対応しているか否かの区別をしておかないと、申告時に消費税計算が異なってしまうおそれがあるため注意しましょう。
電子帳簿保存法に対応した請求書の管理方法
帳簿や書類を電子データとして保存することを認め、その扱いや保管方法を定めたのが「電子帳簿保存法」です。電子帳簿保存法における請求書の扱いについては、以下のポイントに着目しましょう。
請求書を発行する場合
自社で請求書を発行する場合は、発行した請求書の控えを保存しなくてはなりません。紙の請求書の場合はそのまま保存するか、原本をスキャナ保存したうえでデータ化するかのどちらかを選択します。なお、スキャナ保存では「可視性の確保」「真実性の確保」が規定されており、規定を満たしてはじめてスキャナ保存の要件が認められます。具体的には、大きさ情報の保存やカラー画像データの保存、検索機能の担保、帳簿との相互関連性などが保証されていなければ、スキャナ保存の要件が認められません。
請求書を受け取る場合
紙の請求書を受け取った場合は、発行時の対応と概ね変わりません。紙のまま保存する、または原本をスキャナでデータ化して保存するかのどちらかです。電子データの請求書を受け取った場合は、2024年1月以降は紙への出力および保存が認められなくなるため、電子データのまま保存しなくてはなりません。
クラウド型の請求管理システムを選ぶポイント
ここからは、クラウド型請求管理システムの選び方をご紹介します。システムのタイプや連携のしやすさ、用意されているプランなど、システムを選ぶ際に注目したいポイントをいくつか解説しました。
請求管理システムのタイプ
クラウド型の請求管理システムは、「請求書の作成や送付に特化しているもの」「口座に連携して入金確認も可能なもの」「入金確認と消込や未払い催促も対応できるもの」「入金確認/消込/未払い催促/他の会計システムなどと連携して入金管理業務も行えるもの」の4つに大別できます。管理システムのタイプによって請求業務の対応範囲が異なるため、自社の請求業務範囲や規模、業種に合ったタイプを選ぶことが大切です。
他のシステムとの連携しやすさ
自社で導入している既存のシステムと連携させやすいか否かをチェックしましょう。連携方法としては、「WebAPIによる連携」か「CSVファイル」を経由した連携の2種類に分けられます。特に、API連携は外部のシステムやアプリ同士をスムーズに接続する仕組みであるため、「請求書を頻繁に発行する」という場合はAPI連携を搭載した請求管理システムがおすすめです。
自社の発行件数に合ったプランの有無
クラウド型請求管理システムは、利用ユーザーの数や発行件数、使用する機能に応じた料金プランを提供しています。自社の請求書発行件数に合ったプランを選べば、コストを最適化して請求管理業務を進められます。料金プランの柔軟性や、将来的なビジネスの成長に対応できる拡張性を踏まえて選ぶのも良いでしょう。
紙の請求書を希望する取引先への対応の可否
取引先によっては、紙の請求書を希望される場合があります。電子請求書だけでなく、紙の請求書の発行や郵送のサービスが提供されているかを確認しておくと良いでしょう。ハイブリッドな対応が可能な請求管理システムであれば、取引先の多様なニーズに応えられます。
法律や税制度の変更への対応度
請求管理業務は、法律や税制度への理解がなくては成り立ちません。インボイス制度や電子帳簿保存法など、新しい法規制に対応するための機能やサポートが提供されているか否かをチェックしましょう。自動アップデート機能や、法制度に関する最新情報を提供するサービスがあるかを確認するのもおすすめです。
セキュリティ機能と対応
請求書には、取引先の個人名や経理関連のデータなどの社外秘情報が多く含まれます。「暗号化機能が搭載されているか」「定期的な自動バックアップやアップデート機能があるか」「アクセス制御や閲覧制御などの細かな設定は可能か」といった点に着目しましょう。
サポート体制の充実度
不具合や疑問点が生じた際に、迅速にサポートを受けられるか否かも重要です。電話やメール、チャットなどサポートチャネルが豊富に用意されているかを確認すると良いでしょう。また、深夜や早朝、休日などサポートの対応時間についてもチェックする必要があります。
請求書の管理業務を正しく知り、請求書管理のデジタル化を実践していきましょう
請求書の管理業務は、社内外のお金が絡む重要な業務です。小さなミスが大きなインシデントへつながる恐れがあり、正確な作業フローや正しい法律、税制の知識が求められます。そこで役立つのが、請求管理システムです。コストやヒューマンエラーの削減、業務効率化など、自社が求める機能に合う請求管理システムを選定しましょう。
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