昨今の企業運営に欠かせない主要なITシステムとして、ERP(基幹システム)と会計システムが挙げられます。これらは経営判断の精度向上、業務の効率化を中心に、データを軸に管理し、判断していく「データドリブン経営」体制をより推進したい企業にとって特に重要なシステムです。
この記事では、ERPと会計システム(会計ソフト)の特徴や役割を分かりやすく解説します。自社に適したシステムを選ぶために重要な情報をご紹介しますので、ぜひ最後までご覧いただき、システム選定時にお役立てください。
目次
ERPと会計システムについて
企業の運営を支えるシステムとして、ERPと会計システムはどちらも重要な役割を果たしています。以下では、ERPと会計システムの基本的な役割や特徴について詳しく説明します。
ERPとは?
ERPは、会計業務に加え、販売や在庫、人事など多岐にわたる部門の業務を1つのシステムで統合的に管理するシステムです。ERPにより各部門が個別に持っていたデータや業務プロセスをまとめ、全社で統一したデータ、体制で事業を運用できるように支援します。
例えば、在庫管理部門が入力したデータは、販売部門や経理部門でも即座に利用できます。手作業による転記ミスやデータの重複が減り、業務の効率化が期待できます。また、全社的なデータを統一し、一元化することで、経営判断のスピードや精度が向上します。
様々なデータを一括で管理できる一方で、対応範囲が広いシステムとなるため、ERPの導入には相応コストと綿密な計画が必要になります。そのため、複数の部門や拠点を持ち、それらの間で密なデータ連携と業務効率化を求める比較的規模の大きな企業から導入例が増えています。
関連 ERPについてもっと詳しく知りたい方は、基礎から導入メリット、選定のポイント、おすすめの29選品をご紹介している「ERPの基礎知識と選び方」をご覧ください。
会計システムとは?
会計システムは、基幹業務のうち、財務や経理会計の効率化特化した機能を持つシステムです。売上や経費といった財務データの記録と管理の体制を強化し、帳簿作成や決算処理をサポートします。会計システム導入により、経理担当者の負担が軽減され、会計処理の効率化が期待できます。
多くの会計システムは、仕訳や経費管理を自動化する機能を備えており、経理部門の業務効率向上に役立ちます。財務や経理会計の効率化が目的であれば、小規模な企業や個人事業主など初めてシステムを導入する事業者にも取り入れやすい選択肢となります。
一方、システムの対応範囲である経理・財務関連の情報はシステム単体で用いるだけでなく、昨今は他の部門や他システムとのデータ共有と連携が強く望まれるようにもなっています。
ERPと会計システムの違い
ERPと会計システムは、業務内容や目的によってその役割や使い方が異なります。それぞれのシステムが得意とする分野を理解して、自社に適したシステムを選択しましょう。ここでは、業務範囲、コスト、データ連携や業務自動化の観点から、両者の違いを詳しく解説します。
業務の対応範囲の違い
まずは、両者の業務範囲から見ていきましょう。
会計システムの業務範囲
会計システムは、経理や財務に関連する業務を集中的にサポートするシステムです。帳簿の作成や決算処理、経費管理など、経理部門の日常業務を効率化することに特化しています。また、仕訳や経費処理の自動化機能を備え、担当者の作業負担を軽減します。
一方で、他の部門と連携する機能は基本的に含まれておらず、経理部門単独で利用されることが一般的です。そのため、経理業務だけを効率化したい中小企業や個人事業主に適しています。
ERPの業務範囲
ERPは、会計業務に加えて販売管理、人事管理、在庫管理など、企業内の多岐にわたる業務を一元的に管理できるシステムです。各部門の業務データをリアルタイムで共有できるため、部門間の連携が強化され、全社的な業務効率の向上が見込まれます。
例えば、販売部門で入力されたデータがそのまま経理部門に反映されるなど、情報の流れがスムーズです。これにより、業務全体の統一性を保ちやすく、部門間の連携が必要な企業に適しています。
ERPと会計システムの導入・運用にかかるコストの違い
次に、コストの面から比較してみましょう。
会計システムのコスト
会計システムは、特に昨今主流であるクラウド型/SaaS型製品は導入や運用にかかるコストを比較的低く抑えられ、目的やニーズを踏まえた機能を必要十分に備えているため、初めてのシステム導入でも取り入れやすいメリットがあります。
ERPのコスト
ERPは自社の業務やプロセス全般を包括し管理していく目的のシステムであることから、一般的に初期費用と運用コストはその分大きくかかります。販売や在庫、人事など複数部門のデータやプロセスを一元管理するため、システムの設計や構築もその分複雑になり、導入には綿密な計画が求められます。
しかし、全体的にあるいは長期的な視点で見れば、複数のシステムを個別に導入し、運用していくより効率的な選択となる場合が多くあります。
ERPと会計システムのデータ連携と業務自動化の違い
最後に、データ連携と業務自動化の観点から比べてみます。
会計システム
会計システムは、会計業務に機能が特化していることから、他の業務やシステムとのデータ連携のシーンで障壁となる可能性があります。例えば、経理業務に必要な仕訳や経費処理の一部を自動化することで効率化が図れますが、販売や在庫といった他部門のデータが必要な場合は、それぞれのシステムでデータ連携に対応している必要があります。手作業でのデータ入力が必要となれば、その分正確性と効率が著しく低下してしまいます。
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ERP
ERPは、販売や在庫管理、人事管理など、自社の業務全般、さまざまな部門のプロセスとデータを一元管理することから、多くの場合リアルタイムかつシームレスにデータを連携できる機能を標準的に備えています。各部門で発生したデータが自動的に更新され、全社的に統一された情報として活用できるため、意思決定のスピードと精度が向上します。
何よりデータの一貫性が保たれるため、情報の齟齬を防ぐとともに、効率的な業務運営をサポートします。複数の業務プロセスを統合して管理するニーズを持つ企業に向いています。
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ERPと会計システムの選び方
ERPと会計システムは、業務内容や会社の規模、長期的な運用計画に応じて選定するとよいでしょう。業務効率やコストに大きな影響を与えるため、まず、目的や運用計画を明確にしたうえで選定をはじめましょう。以下では、規模や業種、将来性などの観点から選び方のポイントを解説します。
- 業務規模や予算に合わせて選ぶ
- 業種や業務内容に応じた適合性で選ぶ
- 将来の事業拡大や柔軟な運用への対応で選ぶ
業務規模や予算に合わせて選ぶ
システムの導入にあたっては、企業の規模や予算に基づいて選ぶことが重要です。明確な課題があり、特定の業務を中心に効率化したい場合はまず会計システムで財務・経理面を対策するのがよいでしょう。経理業務に特化したシンプルな機能を備え、比較的低コストで導入できるからです。
一方、販売や人事など複数の部門も含めて統合的に管理し、全体的な経営判断をサポートしたい場合にはERPに適する機能が多くあります。ERPは複数部門のデータを一元化し、全社的な効率向上が期待できるため、このようなニーズを明確に持っている企業で特に効果を発揮します。
業種や業務内容に応じた適合性で選ぶ
業種や業務内容に応じたシステム選定も重要です。例えば、製造業や小売業のように複数の部門が連携して業務を進める業種ではERPが有効です。各部門の情報がリアルタイムで共有され、全体の業務効率を高めることができます。
特定の部門の課題解決や効率化を求める場合例えばサービス業の売上管理などではシンプルに会計システムで、まず効率化を図ることが勧められます。経理部門での会計処理や決算業務が中心である場合、会計システムのシンプルさは利点になります。自社の業務プロセスがどのように進行しているのかを確認し、それに合ったシステムを選ぶことが大切です。
将来の事業拡大や柔軟な運用への対応で選ぶ
ITシステムは自社の事業成長を見据えて選ぶことも重要です。自社の成長に伴い、管理範囲が増えたり、業務内容が多様化したりする可能性を見込むならば、ERPは有力な選択肢となります。ERPは多くの場合、機能やユーザー数を増やしやすく、組織の変化へ柔軟に対応できる拡張性・柔軟性を持つ特徴を備えた製品が多くあります。
会計システムは会計管理業務に特化していることから、システムの拡張性や高度なカスタマイズに限界がある場合があります。
関連 ERPは実際どのくらいの企業で導入されているのか、ERPについてより詳しく知りたい方は「シェア率や市場規模を紹介するこちらの記事」をご覧ください。
統合型のERPか個別・拡張型の会計システムか、自社はどちらが適するのかチェック
統合型のERPか、個別・拡張型の会計システムか、どちらを導入すべきかを迷うシーンは多いことでしょう。業務の複雑さや予算、必要な機能などをもとに選択することが大切です。それぞれの特長を理解し、自社の状況や将来のビジョンに適したシステムを見つけるためのポイントを以下で解説します。
- 業務プロセスの複雑さ
- 拡張性
- 予算
- カスタマイズの必要性
- 統合の必要性
業務プロセスの複雑さ
ERPが向いている企業
業務プロセスが複雑である課題を持ち、複数の部門が連携して業務を進める必要がある場合にはERPの検討が適しているでしょう。例えば、製造業や物流業などでは、販売、在庫、人事、会計といった業務が密接に関わり合っています。ERPを活用することで、部門間のデータ共有がスムーズになり、業務全体を効率化できます。
会計システムが向いている企業
部門は複数あるものの、当面の課題として会計や財務管理の業務を効率化したい場合は会計システムで対策するのも近道です。経理部門が中心となって使用する場合、必要な機能に特化した会計システムの方が操作性が良く、導入や運用が手軽です。
拡張性
ERPが向いている企業
企業の成長を見据え、システムを柔軟に拡張したい場合にはERPが適しています。ERPは機能やユーザー数の追加がしやすく、事業規模の拡大に応じて対応できるため、中長期的な運用計画に向いています。また、新たな部門やプロセスを統合する際にも活用しやすい特徴があります。
会計システムが向いている企業
ITシステムに特段詳しいわけではなく、ただ明確かつ喫緊の課題として経理会計業務を効率化したい場合は、まず会計システムを検討するとよいでしょう。クラウド型システムを軸に、スピード感を持って対策していく姿勢も成果創出への第一歩となります。
クラウド型/SaaS型製品にはデータ連携や拡張性を考慮した機能を持つ製品も多く存在し、また機能別にシリーズ化されている製品群も多くあります。「必要になったら機能を追加する」のように拡張はその後に計画することもできます。
予算
ERPが向いている理由
初期費用や運用コストに余裕がある場合、ERPを導入することで長期的なコスト削減や効率化が期待できます。複数部門での一元管理が可能なため、結果として業務の重複や無駄を減らせます。
会計システムが適している理由
予算が限られている場合、導入コストや運用コストが低い会計システムが適しています。特に、経理業務に特化したシンプルなシステムを求める中小企業や個人事業主にとって負担が軽減されます。
カスタマイズの必要性
ERPが向いている理由
業務プロセスに合わせてシステムを柔軟にカスタマイズしたい場合にはERPが選ばれます。ERPは、業界や企業独自の要件に応じた設定や拡張が可能な点が強みです。これにより、自社専用のプロセスを反映した運用が可能になります。
会計システムが適している理由
標準的な機能で十分対応できる場合は、会計システムがシンプルで便利です。カスタマイズの必要が少ない業務においては、標準機能が使いやすい会計システムを選ぶと効率的です。
統合の必要性
ERPが向いている理由
複数の部門間でデータを連携させ、統一された情報管理をまとめて実現したいシーンにERPが求められることが多いです。ERPでは、販売、人事、在庫、会計などのデータやプロセスを統合し、リアルタイムで共有できます。全体の効率化が期待できます。
会計システムが適している理由
課題・問題が喫緊、あるいは明確であったり、難易度や時間・コスト面に壁があるシーンには、具体的な課題に特化したシステムによる部分最適化から進めていくことが多いです。
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