予算策定は企業や自治体において、組織全体の戦略や資金の最適配分を行う重要なプロセスです。適切に予算を定め、予算管理を行いながら実績との差異を分析することは、自社の業績目標達成と拡大のために欠かせません。
この記事では、予算策定の手順、予算策定を実行する具体的なプロセスと必要なスキル、効率化に向けたシステム導入のポイントを解説します。効率よく、そして適性に予算策定を進め、自社の業績向上につなげることを目指しましょう。
予算策定とは?
予算策定とは、企業や事業体・自治体が一定期間における収益と支出を見積もり、資金の配分方針を設定することです。収益見込みや必要経費を事前に洗い出し、組織としてどのリソースに投資するかを明確にします。これによって財務的な安定性を確保し、戦略目標に沿って運営していくための指針、基盤を定めます。
予算策定は経営計画、経営判断や事業計画に大きく影響するので、慎重かつ実行可能な形で進める必要があります。また、立てた計画を守るだけでなく、組織の方針転換や状況、外部環境の変化などに合わせて柔軟に見直す必要も出てきます。短期的なコスト管理だけでなく、中長期的な視点から持続的に改善を重ねることが重要です。
企業および自治体における予算策定の役割
企業は予算策定を通じて資金の使い道を明確にし、収益性の向上やリスク管理を行いながら持続的な成長を目指します。特に新規事業への投資や設備投資など、どこへどの程度のリソースを割くかを検討することは、経営戦略で大きな意味を持ちます。
自治体においては、公共サービスの維持や社会資本の充実に向けて予算が組まれます。例えば、地域住民の生活の質を高めるために必要な支出を見極め、限られた財源を最大限に活用するために定めます。これには幅広い利害関係者との調整や法的な手続きを伴うため、透明性や公平性を意識した予算の組み方が求められます。
いずれの組織も、予算策定を適切に進めることで全体最適を図り、目標に合致した活動を行うことができるようになります。
予算策定と予算管理との違い
予算策定は計画段階で、組織の方向性を数値目標や支出配分に落とし込む作業です。
一方の予算管理は、この計画を立てたあと、実行フェーズに入ってから業績の進捗、予算の使い方をモニタリングする作業です。計画(予算)と実績の差を把握し管理していくので「予実管理」とも呼ばれ、状況、必要に応じて修正を行っていくプロセスに用いられます。
まとめると、予算策定が「どうやって何に、どのくらい投資するか」を決めることであるのに対し、予算管理・予実管理は「その計画が正しく機能しているか、問題はないか」を日常的にチェックすることです。予算が適切に配分されているか、予想を超える支出が発生していないかを把握することが欠かせません。
予算策定と予算管理の両方を円滑に行うためには、計画後のモニタリングやデータ分析まで見据えたツールやシステムの選定、情報共有体制の構築が求められます。
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予算策定のプロセスと手順
予算策定は、組織の戦略や運営方針を踏まえ、具体的な査定と承認プロセスを経て決めていきます。
トップダウン方式とボトムアップ方式
予算策定の方式には、経営層が全体の経営方針や利益目標を決めて予算を策定し、下位組織へ割り振る「トップダウン方式(トップダウンプロセス)」と、各部門が必要予算を積み上げて全体の予算を定める「ボトムアップ方式(ボトムアッププロセス)」があります。それぞれに特徴があり、組織文化や業界特性に応じて使い分けることが重要です。
実際には混合的に使われるケースが多く、経営層からの大枠方針と、現場の積み上げを融合させることで、バランスの取れた予算策定が可能になります。
トップダウン方式
トップダウン方式は明確な目標を全社に共有できるため、全員が同じゴールに向けて動きやすくなります。その反面、現場の実情が反映されづらいといったデメリットが生じる場合があります。
- メリット:迅速な意思決定、戦略の一貫性、コントロールの容易性
- デメリット:現場の実情反映不足、モチベーションの低下、柔軟性の欠如
ボトムアップ方式
ボトムアップ方式は、現場が主体的に予算を見積もるため実態に即した計画が立てやすくなります。その反面、全体の調整に時間がかかる傾向にある点が課題です。
- メリット:現場の実情反映、高いモチベーション、柔軟性
- デメリット:時間がかかる、全体の戦略との整合性、全体コントロールが難しい
目標設定から予算編成までの流れ
会社の掲げるビジョンや戦略目標が明確になったら、各部門がその目標をどのように達成するかを具体的に考えます。例えば必要な施策を洗い出し、それに伴うコストを見積もって算出する工程です。
次に、各部門が作成した予算案を集約し、全体での費用対効果や重複投資の有無をチェックします。この段階で優先度の再評価やコスト削減の余地を検討し、最終的に経営層の確認を得ることで予算を確定させます。
このような手順を踏むことで、組織全体の方向性を見失わず、かつ部門ごとの実情にも配慮したバランスのよい予算策定が実現します。
一般的な手順は以下の通りです。
- 1. 全体の戦略・目標設定と方針決定
- 2. 部門別予算の策定
- 3. 調整と承認
(1)全体の戦略・目標設定と方針決定
経営層が会社が掲げるビジョンや中長期的な戦略を明確化し、その中で必要となる活動や成果目標、予算期間に達成したい財務目標と業務目標を明確に設定します。
例えば、過去の財務データを分析し、予算策定の参考情報を収集したり、外部環境の動向や市場分析、将来予測を行ったりなど、多角的な視点から方針を検討しながら予算期間中の収益予測や固定費・変動費などの発生費の予測を立てます。主観的な意見だけでなく、客観的なデータを用いて見通しを立てることが肝要です。
(2)部門別予算策定
収益予測と費用予測を基に、予算草案を作成します。
トップダウン方式では経営陣が全体の予算を決定し、それを部門ごとに配分します。ボトムアップ方式では、各部門が自己の予算を策定し、それを組み合わせて全体の予算を作成します。
戦略方針に沿い、各部門はそれを達成するために必要な業務計画を策定します。どのような施策をいつまでに行うか、その際に必要となる人員・資金はどの程度かを見積もり、数字としてまとめます。
(3)調整と最終承認
経営層と各部門で予算計画をレビューし、必要に応じて調整を行います。各部門から提出された予算案を見比べながら、重複や優先度の高低に誤認がある項目がないか、などをチェックします。必要に応じて配分の見直しを行い、全社的にバランスの取れた予算に再編していきます。
最後に経営層の承認を得て、正式な予算として文書化・共有します。このステップで未確定要素やリスク要因も洗い出しておくと、後の運用段階でスムーズな予算管理・予実管理につなげやすくなります。
このように組織全体の形成プロセスを踏まえることで、予算が企業戦略や社会的要請に沿った内容となるように調整します。特に、予算が実際の事業活動にどれほど貢献できるかを考える視点が重要です。単に数値の整合性だけを見るのではなく、リスク管理や将来予測も考慮した上で、複数のシナリオを想定しておくと望ましいでしょう。
予算策定に必要なスキルとツール、効率化するシステム
予算策定の効率化においては、分析スキルや情報管理に適したツール/システムの導入が欠かせません。予算策定では、収益見込みやコストの見積もりを正確に行うためのデータ分析力が求められます。加えて、組織横断的に情報を扱うことが多いので、関係部門との調整力やコミュニケーションスキルも求められます。
管理と分析を支え、効率化するシステムとしては、エクセルなどの汎用的なオフィスソフトウェアが広く使われているほか、会計システムや予実管理システム、ERPシステムを導入してデータを一元管理する例も一般的になっています。
特にリアルタイムに業績を把握したいシーンは、クラウド型/SaaS型の上記システム、AI(Artificial Intelligence:人工知能)も活用した分析ツールを用いることが有効です。
- エクセルの活用
- 会計システム、予実管理システムの導入
- データ分析/AIツールの導入
- ERPシステム導入による統合的な効率化
エクセルの活用
エクセル(Microsoft Excel)やGoogleスプレッドシート(Google Sheets)は多くの企業で既に導入されています。関数やピボットテーブルなどの多彩な機能を使いこなせば、データの集計やシミュレーションのような行程も比較的容易に行えます。導入コスト、学習コストが低く、特段の障壁なしに導入できることは大きな魅力です。
ただし規模が大きくなると、ファイルの管理やバージョンの同期が複雑化し、入力ミスや整合性の問題が起こりやすくなることがデメリットです。共同作業の仕組みや、適切な統一フォーマットの設計も重要です。
会計システム、予実管理システムの導入
エクセル管理のデメリットを解消する手段が「会計システム」「予実管理システム」のような、予算管理を効率化するために工夫された機能を備えるITシステム/製品を導入することです。
会計システム、予実管理システムなどの導入により、各部門の支出や収益データを一元管理しやすくなります。自動仕訳のような自動化機能やレポート作成機能が充実する製品も多く、決算期が近づくたびに手動でデータを集計するといったことを行わずとも、また待たずとも、常に正しく最新・リアルタイムなデータを参照でき、それをもとに決断できるようになります。担当者の負担を軽減しながら、同時にデータの確実性とスピードを高められることが大きな利点です。
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データ分析/AIツールの導入
膨大なデータを取り扱う大企業や、より高度な分析が求められる組織では、AIや機械学習を活用する分析ツール、あるいはAI搭載機能を備えるシステムの導入が注目されています。例えば、過去の実績や外部データを活用し、予測モデルを構築することで「高精度の売上予測」や「リスクシミュレーションを行う」といったシーンに活用されています。
データの質と量が十分でなければ、正確な分析結果を得ることは難しい点に注意が必要ですが、AI機能を併用することで分析の自動化・短時間化、予測の高精度化が望め、担当者はその分を戦略的な検討へより時間を割けるようになります。
導入前に必要データの収集やクリーニング方法を検討し、ツールの導入目的と期待する成果をしっかり定義することが成功のカギとなります。
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ERPシステム導入による統合的な効率化
ERP(基幹業務システム)は、会計業務、販売や在庫、人事など多岐にわたる部門の、会社としての基幹業務を1つのシステムで統合的に管理するシステムです。ERPにより各部門が個別に持っていたデータや業務プロセスをまとめ、全社で統一したデータ、体制で事業を運用できるように支援します。
ERPによる体制は、全社・組織全体で形成するプロセスを経る予算策定にも特に有効です。各部門が同一のデータベースを参照することで、誤差やタイムラグが少なくなり、迅速な意思決定が行いやすくなります。
ただし、導入コストや導入・刷新の難易度は相応に高く、また現場での運用体制を整えるための負荷が高くなる可能性もあります。
システム導入時は、自社のニーズと業務プロセスをよく分析し、必要なモジュールをカスタマイズするなどの準備を十分に行うことが大切です。
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予算策定のプロセスを効率化し、業績アップを目指そう
予算策定は単なるコストの見積もりではなく、組織の方向性を具体的に数値化する重要な行程です。トップダウンとボトムアップの両方式を組み合わせた柔軟なアプローチを取り入れるなど、全社で整合性のあるプロセスを構築すると無理がなくより適切な配分計画ができます。
また予算策定のさらなる効率化に向けて、データおよびプロセスを統一しやすい、会計システムや予実管理システム、ERPのようなITシステムの導入・刷新を視野に入れることをおすすめします。予算策定が終わった後は、予実管理システムの導入などを通じて計画と実績の差異を素早く把握し、必要に応じて予算を再編成する取り組みが欠かせません。こうした継続的な見直しが、最終的には組織の業績アップを実現する大きな原動力となります。
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