昨今、早期の対応や実践が叫ばれる「企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」。このDXを実践、検討していく中でよく登場する「聞き慣れない単語/略語」から、IT製品の活用において「実はあまり理解していなかったかもしれない用語/略語」「これから使っていくかもしれない言葉」をピックアップし、機能と使い方、メリット・デメリット、選定ポイントを分かりやすく解説していきます。今回は「BIツール(Business Intelligence/ビジネスインテリジェンス)」です。
目次
BIツールとは?
BI(Business Intelligence/ビジネスインテリジェンス 読み:ビーアイ)は、データドリブン(データ駆動)のビジネス意思決定を行うために、社内外のデータを分析して意思決定を支援する技術や手法、あるいはそれを行うIT製品・ツール・アプリケーションのことです。BIにより、組織はデータドリブン型の意思決定を行うことを促進でき、ビジネスの効率と効果を向上させることが可能になります。
BIの歴史と進化
BIの考え方は1950年台後半、現代のBIの概念として広く認識されるようになったのは1989年頃とされています。初期(1990年台~2000年台)のBIツールは主にレポート作成とダッシュボードによるビジュアル化した表示に焦点を当てていましたが、2024年現在のBIツールは「予測分析」や「AI・機械学習」などとともにより高度な機能を備え、ビジネス戦略に必要である「データドリブン型戦略」のための情報ツールとして広く活用されるようになっています。
BIツールの目的
BIツールの主目的は「ビジネスの意思決定を支援する」ために迅速性・正確性・精度・効率を高めることです。膨大にあるデータを収集し、整理し、さまざまな視点で分析することで、ビジネス傾向や戦略パターンの発見に導きます。
BIツールによって、例えば「市場のトレンドを把握し、競争優位性を維持する情報」を得られます。併せて、組織の効率性を向上させコスト削減に寄与したり、データを活用して新たなビジネスチャンスを発見したり、業績を向上させたりすることが可能になります。
BIの導入・活用シーン
BIで得られる情報は業界や業種、組織、部署によってさまざまですが、特に「経営管理」「マーケティング」「営業」「人事」のシーンで多く使われ、主に経営層、マーケティング部門、BIエンジニア・IT部門の担当者が用いることが多いです。
BIツールのメリット
- 意思決定を迅速化できる
- 業務効率が向上する
- コスト削減を実現できる
- 新たなビジネスチャンスを発見できる
- 競争力をより強化できる
- 収益拡大を図れる
- 顧客満足度を高められる
意思決定を迅速化できる
BIツールは客観性のある「データ」に基づいた意思決定を可能にします。データをリアルタイムに分析・可視化し、また経営層や現場の従業員が迅速に意思決定できるよう直感的に理解できる形式で表出できます。これによりビジネスのスピードと柔軟性を向上でき、競争優位性を保つ大きな武器になります。
業務効率が向上する
ほとんどのBIツールは、データの収集、整理、そして分析までを自動化する機能を備えます。BIツールの自動化されたデータ収集と分析機能により、データ分析業務の効率を大きく高める成果が期待できます。また、手作業の負担を大きく軽減して工数を削減できる分、従業員は別のより付加価値の高い業務へ集中でき、全体の業務効率を高める成果も期待できます。長時間労働の削減などにもつながります。
コスト削減を実現できる
BIツールにより無駄な業務やリソースの削減が可能となり、運営コストを最適化できます。例えば、人員リソース・配分の適性化、在庫管理の効率化、エネルギー消費の最適化など、さまざまな分野でコスト削減が期待できます。
新たなビジネスチャンスを発見できる
BIツールによるデータ分析により、潜在的な市場や顧客のニーズをより深く把握できるようになります。例えば、新製品やサービスの開発、新しい市場への参入に向けた重要な情報などとともに自社ビジネスの成長を促進します。
競争力をより強化できる
BIツールにより、市場や競合他社の動向をリアルタイムで把握し、迅速に対応・対策していくための土壌も整います。ライバル社より早く、安く、いいものを──。このような、競争優位性を保ち、業界内でのポジションを強化する重要な情報を得られます。
収益拡大を図れる
BIツールの効率的なデータ分析により、より的確なマーケティング戦略や販売戦略を立案できるようになります。これにより、売上の増加とコストの最適化が図れ、全体的な収益拡大を実現する可能性が高まります。
リスク管理を強化できる
BIツールで得られる情報は、リアルタイムで異常値やリスク要因を検出、発見することにも使われます。これにより早期に対策を講じ、ビジネスリスクを最小限に抑え、安定した運営が可能となります。
顧客満足度を高められる
BIツールは、顧客データを詳細に分析し、これまで知り得なかった個別のニーズや行動パターンを見つけ出すことにもよく使われます。顧客一人ひとりに向けたパーソナライズされたサービスの提供を行うための重要な情報として、顧客満足度を向上させることに大きく寄与します。
BIツールのデメリット
BIツールには多くのメリットがありますが、デメリットや課題も存在します。
まずは「コスト面」です。IT製品は一般的に、ライセンス費用やインフラ整備、トレーニングコストなどが発生するので、初期費・運用費が想像以上に高額になる傾向があります。中小企業にとって特に負担となることがあります。
続いて「データの正確性や一貫性」の観点です。データの正確性、つまりデータが正しいものでなければ分析結果も信頼できないものとなり、誤った意思決定につながるリスクがあります。また、データの一貫性・整合性を取るためには「データのシステム間連携が必要」です。自社システムの状況によってはこの行程が困難でコストもかかる、ハードルの高い作業となることが予想されます。
「ツールの操作やデータ分析の知識も、ある程度必要」です。目的やプロセスが定まっていなければ、数ある有益な機能も成果を発揮できません。導入したのに現場での活用が進まなかった──となる失敗例は、導入後に適切なトレーニングやサポートが不足していたことが一因に挙げられます。
このようなデメリットや課題を克服するためには、導入前に十分な計画と準備が必要であり、継続的なトレーニングやサポート体制の整備も重要です。
BIツールとエクセルの違い
エクセル(Microsoft Excel)も、データ分析やレポート作成の用途でも広く日常的に使われているソフトウェアの代表例です。BIツールとエクセルは何が違うのでしょう。
BIツールはまず、エクセルに比べて大規模データの統合・視覚化・分析に優れる機能を備えます。リアルタイムデータ更新や高度なダッシュボード作成が可能で、ビジネスインテリジェンス(経営情報分析)を含む経営分析、リアルタイムモニタリングに適しています。対してエクセルはすぐ、手軽に、誰でも、コスト負担も実質なく使える柔軟性がありますが、大量データの処理や高度な分析には限界があり、また高度な分析となれば相応の専門知識を要します。
BIツールはエクセルに比べると初期設定や体制、専門知識が必要ですが、大規模なデータの自動収集や統合、自動レポート作成が可能で、業務効率を大幅に向上させます。分析担当者やビジネスアナリストがBIツールを求める理由はここにあります。
また、「セルフサービスBI」として、技術的な専門知識を持たない一般ユーザー、例えば営業・マーケティング担当者、経営層でも簡単にデータを収集、分析、視覚化できるよう工夫した機能を持つ製品も増えています。これにより、データ分析の専門家やIT部門に依存せずに、自分自身でデータに基づいた意思決定を行うことが可能になります。
BIツールとエクセルの違い | BIツール | エクセル |
---|---|---|
特徴 | 大規模データの統合・視覚化・分析に特化 | スプレッドシートによるデータ入力・計算・分析が可能 |
利点 | リアルタイムデータ更新、ダッシュボード作成自動化、データの自動収集・統合 | 柔軟性、手軽さ、豊富な関数とグラフ機能 |
用途 | ビジネスインテリジェンス、経営分析、リアルタイムモニタリング | 日常的なデータ管理、基本的なデータ分析、レポート作成 |
主な分析機能 | データ統合、高度なダッシュボード、インタラクティブな視覚化、自動化、ユーザー管理 | 手動データ入力、数百種類の関数、基本的なチャートとグラフ、マクロとVBA |
ライセンス費用 | 一般的に月額または年額支払いのサブスクリプション型。規模や導入プランによって差があり、高額になることもある | Microsoft Office、あるいはMicrosoft 365の一部として提供され、従業員単位ならば比較的安価 |
初期コスト | 導入支援やトレーニングのコストが発生することが多い | (基本的には)不要 |
運用コスト | 利用料金および定期的なアップデートやサポート費用がかかることがある | Microsoft 365はサブスクリプション利用料金がかかる。定期的なアップデートはMicrosoft 365のサブスクリプションに含まれる |
利用難易度 | 中〜高
初期設定やデータ統合などにも専門知識が必要なことがある |
低〜中
基本的な利用と操作は容易だが、VBAや高度な関数の使用・使いこなしには学習と知識が必要 |
想定ユーザー | 分析担当者、データサイエンティスト、ビジネスアナリスト
(セルフサービスBIは一般ユーザー、経営層なども含む) |
一般ユーザー、事務職、データアナリスト |
BIツールの機能
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データ可視化機能
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レポート作成機能
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データ統合機能
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予測分析機能
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セルフサービスBI機能
データ可視化機能
データをグラフやチャート、ダッシュボードなどに視覚的に表示する機能です。容易にデータの傾向や異常値を把握できるため、迅速な意思決定が可能になります。特に日本企業では、経営層への報告や現場での迅速な対応に重宝されています。
レポート作成機能
定期的なレポートを自動生成・配布する機能です。経営者や管理職にとって、タイムリーかつ正確な情報提供が不可欠であり、手作業によるミスを防ぐことができます。多くの日本企業では、定期報告が重要な業務プロセスの一部となっています。
データ統合機能
複数のデータソースから情報を集約し、一元的に管理する機能です。異なる部門やシステムからのデータを統合することで、全社的な視点での分析が可能になります。日本企業においては、部門間の連携を強化するために重要です。
予測分析機能
過去のデータを基に将来の傾向を予測する機能です。需要予測やリスク管理など、状況に応じてAI(Artificial Intelligence:人工知能)なども活用して将来の計画策定に役立てます。特に競争が激しい市場において、日本企業はこの機能を活用して戦略的な意思決定を行うことが求められます。
セルフサービスBI機能
統計学など専門的な知識がないユーザーでも、自分でデータを分析し、可視化できる機能です。現場の従業員が迅速にデータを活用できるようになり、業務効率が向上します。現場のニーズに迅速に応えるべく、昨今この機能が特に重宝されるシーンが増えています。
BIツールの活用方法/データの収集と分析のプロセス
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データ収集
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データ統合とクリーニング
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データ分析
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データ可視化
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レポート作成と共有
1.データ収集
まず、BIツールは様々なデータソース(例えば、ERP、CRM、IoTデバイスなど)からデータを収集し、一元管理します。データがなければ分析も可視化もできないため、最初のステップとしてデータ収集が必要です。
2.データ統合とクリーニング
次に、収集したデータを統合し、一貫性と正確性を確保するためにクリーニング──例えば重複排除や欠損値補完を行います。データの品質を向上させ、信頼性のある分析結果を得るために必要なプロセスです。
3.データ分析
クリーニングされたデータを用いて統計分析や予測分析を行います。これにより現状分析や将来の傾向を予測し、戦略的な意思決定に役立てます。
4.データ可視化
データの傾向や異常値を直感的に把握できるように、分析結果をグラフ、チャート、ダッシュボードなどで視覚的に表示します。人が判断するための情報を整理し、確実かつ明快にすることで、迅速な意思決定を支援します。
5.レポート作成と共有
可視化した情報も含めて、定期的なレポートを自動生成し、関係者に配布・共有するためのレポートを生成します。この工程を自動化するBIツールの機能を生かし組織全体で情報を共有することで、一貫した意思決定とデータ活用の体制を促進できます。
人気・主要のBIツール3選
(製品名 abcあいうえお順/2024年8月時点)
Power BI
Power BIはマイクロソフトが提供するBIツールで、エクセルやその他のマイクロソフト製品との高い互換性が特徴です。比較的低コストで導入でき、クラウドベースのデータ共有機能も充実していることが強みです。中小企業から大企業まで、予算管理や業務報告、営業データの分析など、幅広い業務シーンで活用されています。
Tableau
Tableauは直感的なドラッグ&ドロップ操作でデータ可視化が簡単に行えるツールです。高度なデータ可視化機能と豊富なグラフオプションを強みに、マーケティング分析や営業レポート・報告などデータでの効果的なプレゼンテーションが求められるビジネスシーンで広く利用されています。
Qlik
Qlikはデータ統合から可視化、分析までを一貫して行えるセルフサービスBIツールです。独自の連想技術(分析モデルの提案・実施など)を強みに高速なデータ検索と分析を実施できます。製造業や金融業での複雑なデータ分析、リアルタイムでの業務モニタリングなどで導入例が多くあります。
BIの機能が含まれる/連携・併用・関連によって相乗効果が期待されるIT製品
MA(マーケティングオートメーション)ツール
MAツールは、マーケティング活動を「自動化」し、効率化するためのIT製品です。顧客の購買プロセスが変容し続ける時代において「新規の見込み客(リード)獲得から、育成や見込み度別に選別し、成約の見込みが高い顧客を抽出する」といった、これまで属人化しがちで、知識や経験も必要だった高度なマーケティング活動とその行程を、集約したデータともとに自動化できます。
BIとMA(マーケティングオートメーション)はどちらも「データドリブン型によるビジネスの効率化」を目的にするツールですが、それぞれ異なる目的と機能を持ちます。
BIは「さまざまなデータ」の分析を可能とし、データの収集と分析に特化することでビジネス課題やその解決策を得たいシーンで活用されます。
MAは「営業活動やマーケティング業務の自動化や効率化」に特化し、主に営業・マーケティング活動を支援するためのツールとして導入されます。
CRM(顧客管理システム)
CRMは、取引先、購入者から、見込み客まで「自社の顧客」に関するあらゆる情報を一元管理して戦略的に活用していくためのIT製品です。顧客の情報を集積、管理し、分析して、適切なタイミングで最適なアプローチをかけるような業務を自動化していけます。「顧客管理と営業活動の最適化」に特化し、主に営業活動を支援するためのツールとして導入されます。
BIとCRMが連携することで、顧客データのより包括的な分析、迅速な状況把握、レポートの自動化、営業効率の向上などの期待効果とともに、より早く正確な意思決定を支援することにつながります。
BIツールの選定ポイント
- データ統合能力
- セルフサービスBI
- 視覚化とダッシュボード機能
- コストとサポート体制
1. データ統合能力
BIツールのデータ統合能力は非常に重要です。複数のデータソース、例えばデータベース、クラウドサービス、Excelシートなどからデータを自動的に収集・統合できる機能があると、データの一貫性と正確性が保たれ、分析の信頼性が向上します。
2.セルフサービスBI機能と使いやすさ
セルフサービスBI機能を持つBIツールであれば、技術的な専門知識がないビジネスユーザーでも簡単にデータを分析・視覚化できます。直感的な操作でデータを扱えるため、部門ごとの独立した分析や迅速な意思決定が可能です。この機能があることで、IT部門・専門部門への依存度が減り、業務効率が向上します。
3. 視覚化とダッシュボード機能
データの視覚化能力はBIツールの選定における重要な要素です。高度なダッシュボード作成機能やインタラクティブな視覚化オプションが豊富であることは、データの洞察を得やすくし、意思決定をサポートします。
4. コストとサポート体制
BIツールのライセンス費用や運用コストを確認し、予算に合ったものを選ぶことが重要です。また、導入後のサポート体制が充実しているかも確認しましょう。トレーニングや技術サポートが充実していると、運用がスムーズに進みます。
まとめ:BIツールで「データドリブン型経営」を効果的に、かつ高度に推進
BIツールを導入することで、データをリアルタイムに可視化し、迅速な意思決定が可能になります。これにより、業務効率が向上し、コスト削減や新たなビジネスチャンスの発見にもつながります。また、データ分析に基づいた戦略立案が容易になり、競争力を強化できるほか、収益拡大も図れます。全社でのデータ共有と一貫した意思決定を促進し、自社全体のパフォーマンス向上を実現していきましょう。
「自社に合うIT製品・サービスが分からない」「どんな製品があるのかを知りたい」「どう選べばいいのか分からない」「時間をかけずに効率的にサービスを検討したい」というご担当者様は、ぜひITセレクトの専門スタッフまでお問い合わせください。適切なIT製品・サービス選定を最後までサポートいたします。