「案件管理マスタの情報が重複している」「営業管理システムと経理システムで計上した売上が異なる」など、情報の錯そうは日々の業務で頻繫に起こり得ます。どの数字が正しいのかを調べたり、抜け漏れや重複をそれぞれのシステムで修正したりと、情報の整合性を保つために複数のシステムを行き来して情報確認するためだけの時間は、ERPの導入で削減できます。この記事では、ERPの基本知識と効果、メリット、デメリットともに、ERP製品選びのポイントを詳しく紹介していきます。
目次
ERPを導入する企業が増えている理由
ERPは、「Enterprise Resources Planning」の頭文字で、直訳すると「企業資源計画」となります。
ここでは、ERPの意味や目的、導入が広がった背景などについて紹介します。
ERPとは?
ERPは、基本的な経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を一元管理して有効活用しようとする考え方です。
上述したERPの概念を実現するためのITシステムあるいはIT製品群を「ERPパッケージ」や「ERPシステム」、「統合基幹業務システム」と呼びます。ERPシステムにおける「一元化」の機能は、「1 Fact, 1 Place(1つの事実は1つの場所に)」というデータベース設計における考え方に基づいています。
企業がERPを導入する目的
ERPシステムは、会計・人事・生産・物流・販売などの企業における基幹業務をシステム上で統合します。その導入目的は、経営リソース(ヒト、モノ、カネ、情報)に関するデータをERPシステムで一元管理して、業務効率や意思決定のスピードを向上させることにあります。
ERPの導入が広がっている背景
ERPの導入が広がっている背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が求められる現代のビジネス情勢が大きく関わっています。
経済産業省が2022年に発表した「DXレポート2.2(概要)」では、DXのさらなる推進には「デジタル産業への変革に向けた具体的な方向性やアクションを提示」することが重要とされています。
具体的なアクションとしては「デジタルを収益向上に活用すること」、「経営上の行動指針を示すこと」が挙げられます。このアクションの実現に役立つのがERPです。ERPシステムに集約された経営情報を活用することで会社の現状の「見える化」に役立ち、経営上の改善点の把握や迅速な意思決定につながります。ERPシステムの導入が広がっている背景には、DX化の推進という期待が込められていると言えます。
ERPの導入が向いている企業の特徴
ERPがもたらす恩恵を最大限に享受できるのは、情報やシステムが統合されておらず、課題を感じている企業です。
拠点や部門が複数あるために情報が散在していてその集約に時間と手間がかかっている企業や、複数のシステムを導入していてそれぞれにランニングコストが発生している企業が例に挙げられます。ERPシステムの導入によって情報を1つのシステム内に集約して業務プロセスを効率化できる上に、複数のシステムを運用するよりもランニングコストを軽減できるケースがあります。
ERPの導入で得られる主なメリット
ERPシステムによってデータを一元管理することで、業務の効率化や経営戦略の迅速化などに幅広く活用できるのがメリットです。
ERPの導入で特に期待できる効果と成果は以下の通りです。
- 業務効率の向上
- 部門間の連携促進
- 経営判断の迅速化
- 情報の活用促進
- セキュリティの一括管理
- ITコストの削減
- システムの管理業務の負担軽減
業務効率の向上
ERPシステムは基幹業務の情報を一元管理できるため、業務プロセスの効率化につながります。
例えば、受注・生産・販売・在庫管理といった業務プロセスをERPシステムで統合することで、各工程で同じデータを入力する手間が削減できます。
人力での入力で起きやすいヒューマンエラーや遅延が減るため、業務のスピードと品質も向上します。
部門間の連携促進
ERPシステムは、リアルタイムに情報を共有できるため部門間の連携をスムーズにします。
例えば、販売部門が商品を売ると、販売情報がリアルタイムで在庫管理システムに反映され、在庫数が自動的に更新されるといった情報の連携が可能です。在庫管理部門は現在の在庫状況を見て発注の必要性を判断できるため、余剰在庫や欠品のリスクを避けて適切な管理ができます。
経営判断の迅速化
ERPシステムは、現場の従業員だけでなく管理者・経営者といった組織の責任者にとってもメリットがあります。
財務や人事など経営戦略を考える上で欠かせない情報がシステム内で統合されているため、管理者・経営者が会社全体のデータを俯瞰し、経営資源の配分に過不足がないかを考えたり、売上を予測したりといった経営戦略を迅速に行えます。
情報の活用促進
ERPシステムは、財務・人事・製造など各部門の情報を1つのデータベースに集約します。
案件情報はAシステムで顧客情報はBシステムといったように、情報が散在している状態と比べて情報へのアクセスや収集が容易になります。
また、多くのERPシステムはデータ分析機能であるBI(Business Intelligence)を搭載しており、経営状況の可視化や分析をリアルタイムに行えるのがメリットです。
セキュリティの一括管理
ERPシステムの導入は、企業の効率的なセキュリティ管理にもつながります。
複数のシステムに分散していた機密情報や顧客データをERPで一元管理することで、セキュリティ対策を集中的に行えるためです。具体的には、ログイン時の認証設定やアクセス制御、ログ管理機能などがあります。
ITコストの削減
複数の業務システムが社内にある場合、それぞれのシステムに対してライセンス料や運用管理などの金銭的・時間的コストが発生します。
ERPでは複数の基幹業務をERPシステムに集約できるため、分散していた費用や労力をまとめることでコストの削減につながるケースがあります。
内部統制の強化
内部統制とは、違法行為や不正を防ぎ、事業目的を達成するための社内における制度やルールのことです。
ERPシステムで情報を一元管理することでデータの正確性と信頼性を高められるため、改ざんや架空処理などの不正を防止できます。
システムの管理業務の負担軽減
ERPは基幹システムが統合されているため、システムメンテナンスや更新などを一括で行えます。
クラウド型システムでは特に、複数システムに対してそれぞれのタイミングで更新・メンテナンスを行うといった煩雑さが解消され、システム管理業務の効率化につながるでしょう。
また、近年頻繁に発生する法律の改正や制度の変更にも、クラウド型であればベンダー側でアップデートの対応を行うことも多いため企業の負担が軽減します。
ERPのデメリットと導入時の注意点
情報を一元管理することでさまざまな「成果」につなぐERPですが、コスト管理や導入プロジェクトの難しさといった課題もよく聞かれます。
ERPを導入するデメリットと注意点を紹介します。
ERPの主なデメリット
新システムの導入、システムの移行には、初期費用として金銭的コストがかかります。例えば、サーバの構築費用、ソフトウェアの購入や設計の費用、データ移行と整備の費用などがこれに当たります。初期費用は、サーバ機器の購入やインフラ設置を省けるクラウド型のほうがオンプレミス型と比較して安価とされます。
また、導入後のERPシステムを使いこなしながら運用するためには、ERPに関する知識とマネジメントスキルも求められます。活用方法が分からない事態を避けるため、事前に従業員教育を行うことも必要です。適切な人材が自社にいない場合は、ITシステムを専門とするコンサルタントのサポートを受けるという選択肢も視野に入れましょう。
企業活動の根幹を為すシステムであるため、その分他のITシステムより重要度が高く、金銭的、時間的なコストがかかり、導入プロジェクトの難易度も比較的高いことが注意点です。
ERPを導入する際の主な注意点
ERPは「情報を一元管理し、活用していく体制」が特に重要な目的です。そのメリットを得るためには当然ですがデータが統一されていることが大切です。一元管理する情報を正確にERPシステムへ反映するには、導入前にデータを整理しておく必要もあるでしょう。表記ゆれや数値に文字列が混ざっているなどの不備は、データの欠如や重複などによるエラーの原因になります。
また、ERPシステムは単に導入すれば終わりではありません。「その後」の成果創出こそが大事です。
多機能であればあるほどコストが高くなること、クラウド型とオンプレミス型で違いがあることなど、ERPシステムの特徴やメリット、デメリットについての理解を深めた上で、自社の規模・注力したい業務とその目的を念頭に置いて選定しましょう。
ERPの導入メリットは「データの一元化」、そして「導入後」の成果創出こそが大事
ERPのメリットは、その大きな目的である「データの一元化」によって得られます。データを一元管理することで、経営資源やビジネス戦略を「最新の、正確な、信頼できるデータ」をもとに判断実施でき、業務プロセスの効率化、経営上の意思決定の迅速化につながります。企業にとってERPの導入は、デジタル化が推進される時代に合わせた経営を実現するための糸口と言っても過言ではありません。ERPシステムはニーズによって多種多様な製品が用意されているため、導入する際には自社の規模や業界、ビジネスプロセスに合わせた製品を検討することが重要です。
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